資材・材料費などが上昇する中、修理工賃単価の据え置きが続いていた車体整備業界。その長年の課題を解決するための一手となり得るアプリケーションソフトが、2024年10月に山形県米沢市のパドックイレブンから誕生した。車体整備車両ごとに、資材、材料、塗料、燃料の各使用数量と価格を算出できるものだ。企画・開発の指揮を山田政弘社長が執り、社員らとともに試行錯誤を重ねて作り上げた。
ソフトの名称は「マテリアル・コスト・カルキュレーション・ソフトウエア(材料・資材算出ソフト)」。同年11月から実際の業務に導入している。算出ソフトによる「材料費算出明細書」を根拠資料として損害保険会社に提示し、材料費などの直接計上が認められた。その結果、計上金額は仕入れ原価を上回り、粗利も確保できる仕組みを構築できた。
山田社長が車体整備における材料費の原価割れを実感するようになったのは約4年前。社内の不良在庫をなくそうと、板金塗装(BP)の作業を完結するに当たって使用している資材などのアイテム数を調べたところ、約150個を数えた。塗料は別で、油性と水性を合わせて約270種類に及んだという。
続いて、修理見積もりの材料費の計上金額と仕入れ金額を確認すると、額面のアンバランスさが際立った。使用している資材、材料費、塗料の価格変更が繰り返されている中、仕入れ原価以下の見積金額であることに危機感を抱いた。この着目が算出ソフトの開発につながる契機となったのだ。
実態調査とさまざまな検証の結果、原価割れの原因は見積もりソフトの使用状況にあることに気付く。山田社長は「損保の算出方法に何の疑問を持たずに使用していた結果だと痛感した」と振り返る。算出アプリを開発するに当たって当初の2年半、社内で社員と資材、材料、塗料の使用実態の検証などを重ねた。その後はソフトウエア会社とやり取りを繰り返して完成に至った。
同社では、算出ソフトの導入で仕入れ原価割れをすべて解消した。資材、材料、塗料、燃料の各費用から粗利を確保。近年の度重なる資材や塗料などの値上げに対応できる仕組みとして活用できると実証済みだ。利用する社員の原価に対する意識が高まり、業務改善を促すことも期待ができる。
山田社長は、車体整備事業者が抱える課題解決に寄与すべく算出ソフトの販売も行う。損保各社は「自検センター指数」を見積もりの根拠とするが、指数に属さない別途計上工数が存在する。それら別途計上工数を漏れなく計上できる仕組みを構築し、車体整備士らの待遇改善の原資となる取り組みに進化させたいとの考えだ。
〈山田政弘社長コメント〉
算出ソフト完成までに費やした月日は約4年。「クルマ屋の親父がこんなことまでやるのですか」と同業の車体整備事業者らから驚きの声をもらう。国土交通省による車体整備事業者向けの消費者に対する透明性確保や損保会社との適切な価格交渉に関する指針などを踏まえ、変革を目指す車体整備事業者の一助になりたい。車体整備料金の計上の考え方をしっかりと持ってもらいたいと勉強会なども行っている。変わりたいと思う車体整備事業者が1社でも増えることで、われわれの業界全体の底上げにもつながると信じている。
(平野 淳)