田中社長(前列右)と高橋自動車のスタッフ。学びや挑戦する機会が得られるようになったことに喜びを感じるという声が多かった

 高橋自動車(田中克昌社長、東京都江戸川区)は、自動車整備業のサンタックス(同、東京都千代田区)からのM&A(合併・買収)により、2022年にグループ傘下に入った。当時は入庫予約を手書きのノートで管理していたほか、勤怠管理などもあいまいだったという。「漠然とした危機感は常に感じていた」と、経営企画部の橋本真紀エリアマネージャーは思い返す。田中社長は「異なる会社同士が一緒になるのだから最初は意見がぶつかることもある」とした上で、「良いところ取りをして一つのグループになれたら良いと思っていた」と当時を振り返る。

 同社がまず着手したのは整理・整頓など「5S」。次いで、ペーパーレス化とシステムの集約を同時並行し、バックオフィス機能の統一化に乗り出した。社員の勤怠管理、顧客の予約状況の管理、記録簿の記入などはすべてデジタルトランスフォーメーション(DX)化を進めた。

 橋本エリアマネージャーは「急にすべてを変えるのではなく、段階的に次のステップに移行するという方法を取ったことで比較的スムーズに受け入れることができた」と感じている。経営体制が変わったことで、当初戸惑いがあった既存社員も、「私たちの意見を聞いてくれる社長が来たことに驚いた」(メカニック兼車両アドバイザーの今邨雄一さん)と受け入れられていった。

 一方、思い切った人事改革も実践した。田中社長は、現場で整備士として働いていた原田貴司さんを工場長に抜てき。原田さんは「突然のことでフロント業務が何だか分からない中、事務所の仲間たちが本当に助けてくれた」という。田中社長にとっては「人柄や日ごろの動きを見てできると思った。経験機会を与えることも企業としての役割」との狙いを明かす。

 サンタックスは、24年に武蔵野自動車(同、東京都小平市)もM&Aした。3社のバックオフィス機能の集約化と就業規則や評価制度、人事交流などを含むシステムの共通化をさらに加速。例えば、評価制度は3社から一人ずつ出してプロジェクトチームを発足し、他社事例も踏まえながら議論を続ける。橋本エリアマネージャーは「他の会社がどうしているのか、これまでは知りたくても知る機会をどうつくるのかも分からなかった」というが、今では「学ぶ楽しさがある」と笑顔をみせる。田中社長は「新しい事業承継の形を一緒に考え、業界の活性化につなげたい」と力を込める。

 〈田中克昌社長コメント〉

 2年連続で応募し、ようやく受賞できた。諦めずに改革を続けてきたことで、表彰式では審査委員の方に事例に説得力があると言っていただき、非常にうれしかった。社員全員が助け合い、力を合わせ、話し合い、学んだ結果だ。また、3社がグループ化したことでさまざまな面で情報共有を行うことがそれぞれの刺激にもなっており、良い循環を生み出せている。当社グループの強みとしてさらに成長していきたい。

(太田 千恵)