日刊自動車新聞社は、「第4回整備事業者アワード2025」の受賞事業者10社を発表した。同アワードは、自動車整備を取り巻く環境が著しく変化する中、今後の整備市場の活性化に向けて〝手本〟となり得る取り組みに光を当てるのが狙い。受賞各社について、全10回の連載でリポートする。
須藤ヂャイアント商会(須藤正樹社長、青森県黒石市)は「整備技術という目に見えないものに適正な料金を支払っていただく」の考えに基づき、さまざまな診断機やテスター類を取りそろえ、オシロスコープなど各種信号のデータや作業前後の画像付きリポートなど整備作業の〝見える化〟に徹底して取り組む。
見える化によって、労働の対価として適正な診断料金を支払ってもらえるようになり、1台当たりの単価も上がった。通常は無料で提供すると思われがちな見積書の作成も知識や技能が求められることを理由に有料化を徹底。須藤社長は「お客さまとはイーブンな関係であるべき。例えば、見積書作成を無料サービスとすることや予約の早割などはあり得ない」と言い切る。顧客の予算を聞いた上で、時には動画も駆使して現状を丁寧に説明し、修理箇所に優先順位をつけるなどして修理内容を決めていくなど、その真摯(しんし)な姿勢は顧客からも高い支持を得ている。
同社を語る上で欠かせない〝故障診断の有料化〟は、約20年前から取り組み始めた。きっかけは「担当整備士によって整備品質にバラつきが出ることを避けるため」(須藤社長)だった。さらに3代目として家業を継いだ当時、納車引き取り、売り掛け回収などが当たり前のように行われており、将来を見据えて改革が必要と判断した。
故障診断の料金は、まず3千円からスタートした。顧客から理解を得るため、独自に資料やサービスメニュー、料金表などを作成し、試行錯誤を繰り返した。そうした中、エポックメーキングな出来事が起こる。「メカトロクラブみちのく」との出会いだ。
整備士としての人格形成と技術の向上を目的とする同団体に加盟したことで、今日につながるあらゆる糧を得た。故障診断の有料化に対する取り組みもいち早く、「数万円単位の料金を設定しているところがあると知り、刺激を受けた」と、須藤社長は当時を振り返る。「整備士としてお客さまから正当な料金をいただくためには、お客さまを教育していくことも役目だ」と先輩代表者からも教わった。
そこで整備を見える化し、顧客に分かりやすく説明するため、例えばオシロスコープを使用した〝音の取り方〟にも工夫を凝らしている。こうした手間を惜しまない姿勢を貫く背景には、「私を育ててくれたメカトロクラブの先輩方を裏切りたくないという思いがある」と強調する。「今日の自分という整備士より、明日の自分という整備士が優れたものでありたい」とまい進する日々が続く。
〈須藤正樹社長コメント〉
整備に対するプライドを持って取り組んできた。今回の受賞が地元紙に掲載され、お客さまから「社長なら何かやってくれると信じていた」という喜びの電話をいただくなど反響があった。整備士が整備士として正当な料金をもらうためには、整備士としての努力も必要だが、経営者としての努力も必要だ。仲間をつくり、常に勉強していくことが大事だ。熱意ある人に対しては知識を惜しみなく注いでいきたい。
(真坂 啓吾)