トヨタ自動車系の主要サプライヤーが25日までに前期業績と今期見通しを一斉に発表した。注目は〝トランプ関税〟の影響をどう見込むかだったが、アイシンなど一部を除き、大半のサプライヤーが今期見通しにおける関税影響の算定を見送った。デンソーの松井靖副社長は「全体を俯瞰(ふかん)し、影響額を見極めたい。パニックに陥らないことだ」と説いた。
トランプ米政権は4月3日に輸入車に対する追加関税(25%)を発動。5月3日までには追加関税の対象となる自動車部品の細目も公表する見通しだ。
2026年度通期業績における関税影響額を織り込んだのは、大手ではアイシンと豊田合成、トヨタ紡織の3社。アイシンは「価格転嫁のタイミングずれなどを踏まえて(営業段階で)200億円程度を織り込んだ」(伊藤慎太郎副社長)という。豊田合成は売上収益(売上高)で200億円、営業利益で50億円、トヨタ紡織は最大3億円を影響額として盛り込んだ。中堅の大豊工業は4月に限り、関税実効分として営業損益ベースで5千万円ほどを計上している。
もっとも、アイシンの伊藤副社長は「第1四半期でいろいろと出てくるので仮置き。数字は今後の動向を見て見直していく」と語った。大豊工業の新美俊生社長は「(影響額として)織り込んだのは軸受け部品の材料になる鉄鋼。自動車部品としての関税はまだ不透明なので加味していない」と明かした。
完成車メーカーは一般に1カ月~1カ月半ほどの流通在庫を持つ。関税影響が本格化するのは、こうした流通在庫が売れてからの話だ。各社が主取引先とするトヨタは「当面、今のオペレーションを維持する」とコメントしている。東海理化の二之夕裕美社長は「第2四半期ごろにならないと全貌が見えてこない」と語った。一方、フタバ産業の今井英樹取締役は「いつになったら先の見通しが付くのか判断がつきかねる」と困惑顔だ。
もちろん、各社は自社のサプライチェーン(供給網)における影響度合いを細かく洗い出し、自動車メーカー各社とも密にコミュニケーションしている。ただ「どう取引価格に反映してもらうか、誰が吸収するかは、顧客や取引先とこれからの相談ごとになる」(東海理化の二之夕社長)という状況のようだ。
愛三工業の野村得之社長は「自社でできることは『地産地消』。日本や他の地域から米国に送っているものもあるので、作る場所も含めて仕入先と相談しながら柔軟に考えていく」と話した。
一方、デンソーの林新之助社長は「個社で対応する側面もあるが、半分は業界全体でどう対応していくかが大事だ」と話し、国内の供給網や雇用を維持するためにも、業界や政府と連携して対応していく必要性を強調した。政府は先週末、米国の関税を踏まえた「緊急対応パッケージ」を公表。「支援に万全を期す」とした一方で「国民生活への影響をよく注視し、躊躇(ちゅうちょ)なく追加的に必要な対応を行っていく」とした。
今期は〝トランプ関税〟や米中摩擦の影響、インフレ、為替など多くのリスクを踏まえての船出となった。デンソーの林社長が言うように個社では背負いきれない側面もあるが、コロナ禍で磨いた変化への〝追随力〟が試される局面にもなりそうだ。
(編集委員・水町 友洋)