日立ソリューションズ  サステナブルシティビジネス事業部 マーケティング推進部 特任エンジニア 田中秀昭氏
基本となる車車間通信・路車間通信
各規格に対応するV2Xスタックを提供、またサードパーティ製のV2Xセキュリティライブラリも提供可能
V2Xアプリケーションの効率的な開発・検証を支援するV2X Toolsを提供

 ADAS(先進運転支援システム)や自動運転システムでは自車周辺の状況を認識するためにレーダー、カメラ、LiDARのようなセンサーが使われている。これらは人間で言えば視覚に相当するもので、その認識範囲には限界があり、遠くのものあるいは近くても障害物の先にあるものすなわち見通し外のものを認識することができない。

 Vehicle to X Communication (V2X、C2Xとも呼ばれる)は車と車、あるいは車と周辺の道路設備や歩行者などが通信することで互いの認識範囲を拡張することを可能にする。

 V2Xによって他車(位置、移動方向、加速度など)や、 信号機(どのくらい先にあるか、信号が変わるまであと何秒かなど)、 道路標識(位置や表示内容など)、歩行者(位置、移動方向など)といったさまざまな情報を取得し、それを踏まえて、運転者へ情報提供・警告・運転アドバイスなどをしたり、緊急車両や二輪車などの接近を知らせたり、行く先の渋滞や工事個所などを検知して知らせたりするアプリケーションにつなげることができる。SDV(Software Defined Vehicle)への移行が進む中で、こうした安全面に資するソフトの更新などで、ドライバーの安全・快適性を一層向上させることも期待できる。

〇標準規格対応

 こうしたV2X向けの車載機器・組み込み機器上で動作するV2X通信スタックソフトウェアを手掛けるのが日立ソリューションズ。V2X Middleware Platformとして展開している。

大きくは3つの特長がある。第1に、V2X標準規格に対応していること。欧州のETSI ITS、北米のSAE/IEEE 1609.x、日本のITS Connect、中国のC-SAE/CCSAなど各国・地域に柔軟に対応できる。APIの共通化で、規格の違いによるアプリケーションへの影響を最小化できる。

 第2に、さまざまなV2X通信モジュールに対応していること。Autotalks、NXP、Qualcommなど主要なチップセットで動作確認済み。第3に、さまざまなOSで動作すること。Linux、QNX等のPOSIX準拠OSで動作確認済み、またPOSIX準拠以外のOSにもポーティング可能。

〇3層のソフトウェア構造

 ソフトウェアは▽V2X Middleware Core 標準規格に対応したV2X通信プロトコルスタック▽V2X Add-ons セキュリティなどの拡張コンポーネント群▽V2X Tools 開発・テスト用ツール群-の3層構造からなる。

 V2X Add-onsのうち、Application Coreは、必要とする周辺他車両の情報をフィルタリングして通知する機能。自車からの相対の矩形範囲を指定することで、その矩形範囲内で移動・出入りした車両の情報のみ通知され、不要な情報通知をフィルタリングできる。アプリケーションごとに、異なる矩形範囲を複数指定できる。

 またV2X Toolsは、PC上から、各デバイスにインストールされているV2X Middleware Core に対し、GUIで編集したデータを送信。各リージョンのV2X規格に準拠した任意データを対象アプリケーションへ送信可能であり、アプリケーションの効率的な開発、検証を実現する。送信するデータをリスト化し保存/読込を行うことにより、繰り返し色々なパターンをテストできるとともに、テストパターンの拡張を可能とする構成になっている。

〇柔軟な提供

 顧客のシステムライフサイクルに応じて、製品ライセンスを提供。その形態も柔軟だ。

 評価ライセンスでは、評価、検討目的に限定して、評価版製品を提供。同社対応済の評価ボード+Linuxで動作確認できる。

 開発ライセンスでは、顧客が製品を開発するためのライセンスを提供。顧客側のハードウェアやOS、セキュリティライブラリに応じてポーティングし、完成したソフトウェアのバイナリを製品として提供する。

 さらに、量産ライセンスは、製品に同社製品を組み込んで出荷するためのライセンス。 開発フェーズで提供したバイナリをそのまま使用可能。出荷台数に基づいてライセンスを提供する。

 また従来は顧客が別途調達していたセキュアなV2X通信を実現するためのソフトウェアについても、サードパーティ製のV2XセキュリティライブラリをV2X Middleware Platformと合わせてワンストップで提供可能。 

 サポートサービスも柔軟だ。評価・検討段階から、開発・テスト段階、量産・保守段階ときめ細やかだ。

 顧客との協創をベースに、最先進のデジタル技術を用いたさまざまなソリューションをグローバルに提供してきた同社。90年代以来の開発の蓄積を生かし、また規格化に協力してきた実績がある。統合ECUなどアーキテクチャーが変化する中、インカーとアウトカー、双方に通じている強みを生かし、開発の迅速化や認証のスムーズな取得などを、一層支援していく。

V2X Middleware Platform