ADASと呼ばれる先進運転支援システムの普及が進む。法律で装着が義務付けられた衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)から定速走行・車間距離制御装置(ACC)、車線維持支援制御装置(LKAS)など機能は多彩で、複数の装置をパッケージ化してPRする自動車メーカーも多い。ただ、ドライバーの慢心や過信を招いては逆効果になりかねない。装置の進化は道半ばだ。
こうした装置は自動運転「レベル2(高度な運転支援)」に定義される。〝支援〟とはいえ技術進化は著しく、顕著な例が高速道路などでのハンズオフ(手放し運転)機能だ。日本では日産自動車やトヨタ自動車、ホンダ、スバルが相次いで実用化した。車線変更を滑らかにこなす車種も登場している。車載センサーやレーダー、カメラなどのセンシング技術と、高精度3次元地図データを組み合わせ、運転に必要な「認知」「判断」「操作」の3要件を車両側がサポートする。
とは言え、レベル2はあくまで人間が運転主体だ。技術がどんなに高度化しても、事故などを起こした場合はドライバーに責任がある。
実際、記者が首都高速道路で日産のハンズオフ機能「プロパイロット2.0」を使って走行していたところ、合流地点手前で機能が突然、オフになった。また、スバルの「アイサイトX」の「渋滞時ハンズオフアシスト」機能も前提条件がそろわないと作動しない。いずれも、あくまで作動環境の範囲内でドライバーの運転操作を支援する装置に過ぎず、決して万能ではない。
にも関わらず、人はこの手の装置に依存したり、時にはわざと作動限界を試そうとしたりする。ハンズオフ機能を米国で大々的に宣伝した米テスラ車では死亡事故が問題になった。このため、各社はADAS動作中にドライバーが注意深く運転しているかを確認するシステムを導入している。多くは車内カメラやステアリングに組み込んだセンサーを用い、前方注視やステアリング操作を促すものだ。
レベル2の高度化と、遠隔監視や低速ならドライバーが要らない「レベル4(特定条件下における完全自動運転)」の普及を横目に「レベル3(条件付き自動運転)」の開発は足踏みしている。
レベル3は、システム作動限界までシステムが運転責任を負う点がレベル2と本質的に異なる。自動車メーカーの技術者は「レベル3はわれわれがハンドルを握ることになる」と話す。センサーや人工知能(AI)などの進化は進むが、相手は千変万化する道路環境と無数の車両たちだ。周辺車両や歩行者などの理解(社会的受容性)を含め、レベル3の進化は一気呵成とはいかない。
車両側の機能が進化するほど人は操作を委ねてしまいがちだが、今は人ほど精緻(せいち)に機械が状況を認知し、判断から操作につなげることは難しい。自動車メーカーはADASの進化を競いつつ、一方で機能の特性や作動限界を正しくドライバーに理解してもらう難しさに直面する。
長らく漸減してきた日本の交通事故死者数も底打ちし始め、ブレーキとアクセルの踏み間違い事故や逆走事故も根絶には至っていない。複雑化する機能へのドライバーの理解や車両価格の上昇といったジレンマもある。自動車メーカー各社が誇る最新ADAS搭載車を試し、交通事故ゼロ社会に向けた〝現在地〟を探った。