自動車に使われている樹脂やガラスの再資源化が課題となっている。どちらも素材としての価格の低さや輸送費の高さなどがネックとなり、自動車シュレッダーダスト(ASR)として処理されることが多い。しかしここにきて、自動車メーカーも車両製造における再生材の活用に強い関心を寄せるようになってきた。足元の状況や再資源化が重要な理由などを日本自動車リサイクル機構(JAERA)の阿部知和専務理事に聞いた。
―なぜ今、樹脂のリサイクルなのか
「5年ほど前に中国が廃棄物の輸入に対する規制を強化したため、それまで多くが輸出されていたASRを日本国内で適正に処理することが求められるようになった。それまで回収が進んでいなかった樹脂やガラスの再資源化に取り組むことで、ASRの発生量を減らそうという機運が高まった。さらに欧州が自動車の生産における再生材の使用に前向きになったことで、日本の自動車メーカーの関心も高まった。流れが大きく変わったと実感している」
―リサイクル事業者からは採算性に懐疑的な声も上がる
「各地のリサイクル企業からは『本当に採算が合うのか』との声が寄せられている。実際、これまでは資源としての買取価格が低く、輸送費もかかるためビジネスとして成り立たせるのは難しかった。しかし、今後は需要の高まりを背景に買取価格が着実に上がっていくだろう。回収すれば確実に売れる状況であり、政府も解体事業者に対する経済的インセンティブの付与を2026年から開始する予定だ。採算性の問題はだんだんと小さくなっていくのではないか」
―回収の促進に向けたJAERAとしての取り組みは
「中小規模の解体事業者がコンソーシアム(企業連合)形式で樹脂の再資源化に乗り出す場合のモデルケースを形成するため、24年度から大手解体事業者や再生樹脂メーカーなどとともに実証事業に取り組んでいる。現在樹脂の回収を手掛けているのは、投資余力のある大手事業者が多い。リサイクル業界は中小企業が大半を占めており、専用の破砕機を導入することが難しい事業者も少なくない。中小企業でも安心して回収に取り組めるよう、モデルケースを示し、作業をする上で注意すべきことをまとめた手引書も制作して会員企業に提供していきたい」
―リサイクル事業者が樹脂を回収することで得られるものは
「中古車輸出の活発化などで、リサイクル事業者に入庫する使用済み自動車が大きく減少している。そのため、従来以上に細かく部品を取り外すなど、使用済み車1台当たりの売上高を高めることがますます重要になっている。樹脂の回収はそれに寄与するものだ。自動車メーカーの需要は多く、リサイクル事業者が品質の良い樹脂をいかに多く供給できるかが問われている。JAERAとしてもさまざまな情報を会員企業に発信することで、樹脂の回収に対する事業者の意欲向上につなげていきたい」
〈プロフィル〉あべ・ともかず 東北大学工学部卒業。1984年出光興産入社。2000年ホンダエンジニアリング入社。09年同社車体研究開発部長。13年ホンダ環境リサイクル推進室長。17年同社資源循環推進部長。19年7月自動車リサイクル促進センター(JARC)専務理事。23年9月日本自動車リサイクル機構(JAERA)参与。24年6月から現職。1959年4月生まれ、65歳。東京都出身。