現場に精通した鈴木修氏の〝勘ピューター〟にはもう頼れない

 スズキは4月から新たな人事制度を導入した。数値目標などの業績と能力を切り分けて評価する仕組みとしたほか、60歳以上の給与や業務体系も見直した。鈴木修氏が経営の第一線から退いて3年。持続的な成長に向け、従業員個人の能力を高められる環境を整える。

 従来の人事制度では、従業員は評価方法や会社から求められている能力などが分からなかったという。人事を担当する加藤祐輔常務役員は「目標に対してどう評価したのかのフィードバックもきちんとされていなかった」と振り返る。さらに、業績と能力の考課を一緒にしていたため「(数値などの)短期的な業績(の達成)を狙って目標を設定するケースが多く、成長から乖離(かいり)していた」(福田尚人事部長)という。

 それでも、これまでは経営上、大きな問題にならなかった。小まめな工場視察など現場に精通した修氏が〝勘ピューター〟を駆使し、人材の配置や優秀な人材の発掘などを差配してきたからだ。しかし、勘ピュータに頼れなくなり、制度的な手当てが課題に浮上した。

 人事制度の改革に着手したのは、修氏が会長から相談役となり、俊宏社長体制になった3年前のこと。俊宏社長が人事制度に関する課題を現場から聞き取ったこともきっかけになった。1990年代後半以来の刷新に踏み切ることが決まった。

 新たな人事制度では「個の成長」に焦点を当てた。業績と能力の評価を切り分け、能力評価に求める要素も全社員に公開した。新制度に基づく教育体制も部門ごとに順次、整備していく。

 60歳以上の社員の給与や業務体系も見直した。60歳以上の再雇用社員はこれまで、仕事量は定年前とさほど変わらないにもかかわらず、給与は大幅に下がる他社と同じような仕組みだった。新制度では、再雇用前と同様の業務なら60歳時点の給与を支給する。加藤常務役員は「海外工場への指導に行くなど、指導者として(ベテラン社員は)大事だ」と理由を説明する。

 スズキは、2030年度に売上高を23年度比30%増の7兆円とする目標を持つ。目標の達成や、30年以降もにらみ、個々の能力を最大限に発揮してもらう仕組みづくりが欠かせない。勘ピューターに頼らない制度により、従業員が高いモチベーションを保って働ける環境を整えていく考えだ。

(藤原 稔里)