〝情緒的価値〟を創造するために
時間をつくって顧客との交流に

 システムの利用で間接業務にかかる時間を極力ゼロに近づけたい-。東京オート(栃木県小山市)の中村浩志社長の根底にあるのは「お客さまと接する時間をできるだけ増やしたい」という思いに他ならない。顧客視点を重視した同社が「モビリティ・ホスピタリティ®」を通じて取り組むのが、中小企業の持続的成長をマーケティング・ソリューションで支援するバリューアップ・ジャパン(VUJ、樋口昭久代表理事)が展開する「TCS(トータルカーライフサポート)研究会」が目指す〝戦略的な価値創造〟の推進と〝量から質へ〟の実現だ。
 「クルマ屋は情緒的価値を提供すべき」と中村社長は考えている。いまやウェブやSNS(会員制交流サイト)で自社の情報を発信するのは当たり前になっており、ユーザーは自分の好きなタイミングでスマートフォンなどから車検や点検の予約ができるようにシステムを整備する事業者は増加の一途をたどる。同社は全国で先駆けてデジタル化を推進。自社オリジナルの顧客管理システムを開発し、蓄積された情報を分析し、結果を可視化して、個人に合わせた適切なアプローチをすることで「生涯個客」づくりを行ってきた。同社がデジタル化を急速に推し進めてきた背景にあるのは「システムで時間を作り出し、生み出した時間をお客さまとの関係づくりにあてたいから」。情緒的価値はデジタルツールでなく、人間にしかできないこと。そして、個人や地域の移動ニーズに寄り添う「プロとしてのアドバイスは付加価値となる」と感じているためだ。一方で、「自分たちが思っているほどお客さまの管理ができていないと感じることも増えていた」と振り返る。

クルマ×顧客×地域との良質な接点や体験価値の提供

 そこで、自社が推し進めていた〝生涯個客づくり〟と理念が同じだと感じたTCS研究会に参画した。「お互いに方法は異なるがノウハウや情報共有ができ学びがある」と述べる。同時に、「自社を客観的に見ることができる」こともメリットに感じた。TCS研究会に参画する企業は地域、商圏、顧客などが異なるため「一つの答えだけを正解とするのではなく違いを認めながら、自社であればどうできるかを考えるきっかけになっている」。さらに、TCS研究会独自の顧客構造改善プログラムやファイナンスシステムの「アドバンスプラン」は「各社の失敗や好事例なども含めてノウハウとなっているため、それぞれの知識と情報の結集」ととらえる。
 また、顧客や地域の求めることをもとに毎月発行する「バリューチェーン(VC)ツール」は、新型車の案内やイベントの情報発信、自社が展開するサービス内容や多様なSNSツールなどを記載する総合版とA4判1枚の店舗ごとのツールと合わせて発送する。店舗ごとのツールでは、地元の飲食店とのコラボレーションイベントやキッズイベントの紹介などをスタッフが工夫しながら企画してクルマ×顧客×地域との良質な接点や体験価値を通じたコミュニケーションを高めている。
 「地元企業として、人に寄り添うという付帯の部分が価値になる」との思いから、キャンピングカーやアウトドア用品のレンタル、結婚相談所も運営して数年が経過した。今後は車関連にとどまらず、コミュニティビジネス化が必須と考え「モビリティ・ホスピタリティを実現する店づくり、関係づくりを進めていきたい」と考えている。秋には思いの詰まった「全国でも新しいコンセプトの新店舗」がオープンする。