経済安全保障を強化しようと日本政府が半導体産業をテコ入れする。台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県内に新設する半導体工場に数千億円規模の補助金を出す検討に入ったほか、電動車に不可欠な大電流にも耐える「パワー半導体」の開発支援として2030年までに約500億円を投じる。ただ、半導体は不安定な需給の中で莫大な先行投資を求められる特殊な産業だ。数兆円単位の支援を打ち出す米国や中国と差別化するため、「日本の企業が強みとする半導体製造装置開発への投資も必要だ」との指摘もある。

 TSMCは、車載用半導体などを生産する新工場を熊本県内に新設する。同社初の日本工場で、デンソーやソニーグループも参画する見込み。24年の量産開始を予定する。一般的に高機能半導体の工場新設には1兆円規模の投資がかかる。萩生田光一経済産業相は「他国に匹敵する措置を講じる」とし、複数年度にわたる補助施策を表明した。支援額は数千億円規模になる見通しだ。

 政府はまた、電力を制御するパワー半導体の開発支援にも今後10年で518億円を投じる計画を打ち出した。民生品や産業機器、自動車など幅広い製品のエネルギー効率を高めるパワー半導体の開発競争は世界で激化している。政府としては、電動車の普及で先行し、優れた素材や製造技術を抱える日本の強みを生かす考えだ。

 ただ、技術革新が早い半導体は継続的な開発・量産投資が必要で、「シリコンサイクル」と呼ばれる需要の振幅に耐えきれず脱落した日本勢に対し、台湾や中国は巨額の財政支援を通じて半導体産業を支えてきた経緯がある。日本が打ち出す投資額も、米国の5兆7千億円や、中国の10兆円超などと比べると見劣りする。

 京都大学大学院の木本恒暢教授は「SiC(シリコンカーバイド)ウエハに関しては現状でも十分な性能を担保できている。デバイスメーカーだけでなく、日本が強い装置メーカーへの支援を積極化するべき」と指摘する。経済産業省の産業構造審議会にも関わる専門家は「日本はパワー半導体を扱うメーカーだけで5~6社あるが、効果的な投資を行うのなら数社に絞るべき」と意見する。また、関係議員連盟の会長も務める自民党の甘利明幹事長は「国際連携も視野に入れ、強い者同士が組んだ方が良い」と話す。

 足元では半導体不足が続くが、需給が安定すればコスト競争の再燃は必至だ。一過性の財政支援にとどまらず、技術や国際分業体制、サプライチェーン(供給網)にまで踏み込んだ戦略的な支援が求められそうだ。