“世界初”の量産EVで市場を耕してきた(写真は10年12月の初代発売に合わせて日産が開いたイベント)

 2010年末に日産自動車が初の量産電気自動車(EV)「リーフ」を世に送り出してから10年。この間、日産は航続距離や充電インフラ、内燃機関と比べて割高な価格といったEVに関わる課題と向き合い続けた。その日産が10年間の〝解〟として新型EV「アリア」を投入する。環境規制の厳格化を背景にEVの投入を急ぐ欧米勢との競争環境は厳しいが、日産には苦悩しながらEV市場を少しずつ耕してきた経験と自負がある。10年で培ったノウハウをアリアに凝縮し、EV新時代を切り開く考えだ。

 09年8月、新築したグローバル本社とともに初代「リーフ」は披露された。10年12月の発売よりも1年以上前に発表する戦略は、今回のアリアと同様だ。三菱自動車がすでにEVの「アイミーブ」を発売していたものの、量産規模の違いを理由に、自信あり気にあえて「世界初の量産EV」と謳ったリーフは、環境意識に対する感度が高いユーザーを中心に大きな関心を集めた。

 ところが、日産の開発陣の意気込みとは裏腹に垂直的に販売台数が伸びることはなかった。航続距離の短さや不足する充電インフラといったネガティブイメージばかりが先行し、一般ユーザーにとっては今すぐ購入する決め手に欠いた。内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は当時を、「その頃、皆さんはEVに懐疑的だった。厳しい声も多かった」と振り返る。

 しかし、販売店とともに粘り強く訴えてきたEVのメリットは次第にユーザーに響くようになる。一般的な新型車とは異なり、時間が経過するとともに着実に販売台数は増加していった。ユーザーの声を吸収しながら商品も改良し、17年には航続距離を322㌔㍍(WLTCモード)に伸ばした2代目のリーフを発売。さらに、19年1月には既存車をベースに電池を効率良く敷き詰めた「リーフe+」を投入し、458㌔㍍(同)の航続距離を実現した。徐々に航続距離に対する不満の声は薄れていった。

 また、日産は同時進行でEVを中心としたエコシステムの構築も本気で進めてきた。初代発売直前の10年9月に住友商事とリチウムイオン電池の二次利用を手がける共同出資会社を設立。18年には日本初となるEV用中古電池の再生事業に乗り出した。電力会社との提携も加速し、EVを社会インフラの1つとして活用する動きでも先行する。

 リーフの国内累計販売台数は14万台、北米や欧州などを含めた世界累計販売台数は50万台を超えた。もちろん、保有台数に対する構成比でみるとまだわずかに過ぎない。年間販売台数も米テスラに大きく水をあけられている。それでも、10年間、1台も重大な事故を起こさず、安全に使用されてきたリーフで蓄積したビッグデータと信頼は他社にない財産だ。このデータをもとに日産はアリアに使用する新しいEV専用プラットフォームを開発した。内田社長兼CEOは「アリアは単なる新型車ではない。新しい扉を開くモデルだ」と述べ、日産の未来を占うEV事業の成功に自信をみせる。

      ◇

 業績不振からの脱却を図る日産は今後、18カ月で12車種の新型車を投入する計画を掲げる。5月の決算会見では今後投入する新型車の頭文字を示唆する「AtoZ」というキーワードを打ち出した。電動車の販売を軸に業績とブランド力の回復を目指す日産にとって「アリア」を意味する「A」の役割は大きい。