無事に書類がそろい、ピカピカに磨き上げられた新車がショールームの納車ブースに置かれている。あなたは納車の際、お客さまに鍵をお渡しし、書類の説明を終えて「ありがとうございました!」とお見送りをするとき、心の中で「これでこの商談も無事に完了だ」という大きな安堵(あんど)感が広がっていませんか?厳しい目標を追い掛ける日々の中で、納車日を一つのゴールとして捉えてしまうのは、ごく自然な感情のように思えます。しかし、ここにセールスパーソンとしてお客さまと末永くお付き合いできるかどうかの、決定的な意識の差が存在します。
セールス側にとっての納車日は、数カ月に及ぶ商談や手続きの締めくくりかもしれません。しかし、ハンドルを握るお客さまにとって納車日は、これからの数年、あるいは10年近く続く新しいカーライフが始まる、記念すべきスタートの日なのです。ご家族で何度も話し合い、決断し、待ちに待ったその日、お客さまはただクルマという機械を受け取りに来ているのではありません。「この車で家族とどんな思い出をつくろうか」「週末はどこへドライブに行こうか」という、輝かしい未来の期待で胸をいっぱいに膨らませて来店されています。
だからこそ、納車を単なる手続きの完了作業にしてはいけません。事務的な操作説明だけで終わらせるのではなく、鍵を手渡すその瞬間に、お客さまがどれほどこの日を心待ちにしていたかに思いを巡らせてみてください。「この車で、ぜひ素敵な思い出をたくさんつくってくださいね」「これから○○様のカーライフを、私が全力でサポートさせていただきます」という心のこもった一言や、記念の写真撮影といった心遣い一つで、その日はお客さまにとって一生忘れられない特別なイベントに変わります。
納車とは、販売プロセスの終わりではなく、お客さまとの本当の信頼関係が始まる開会式です。鍵をお渡しした瞬間から、あなたとお客さまの本当のお付き合いがスタートします。
今日お迎えする納車のお客さまに、単なる手続きを超えた祝福の気持ちを届けてみください。あなたが届ける温かい祝福と、これからもずっと寄り添うという覚悟の一言が、お客さまの胸に「この人から買って本当に良かった」という深い確信を刻み込み、末永い関係が続きます。
文:株式会社プログレス 江原忠宏
〈プロフィル〉えはら・ただひろ 2006年東海大学電子情報学部卒、同年国産ディーラー入社。営業職、店長を務めるも、17年5月輸入車ディーラーに転職。入社2年目に係長昇進、3年連続で販売優秀者表彰。その後人材育成にやりがいを見出し、20年プログレス入社。「人材を『人財』に」をテーマに活動中。静岡県出身、43歳。


















