スズキが初の軽乗用電気自動車(EV)を年度内に投入する。ガソリン車と走りや操作に大きな違和感が出ないように仕上げたのが特徴で、既存の軽ユーザーからの乗り替えを狙う。軽EVは7月末に中国・比亜迪(BYD)が「ラッコ」を発売し、ラインアップが広がりつつある。EVならではの魅力がある一方、補助金の少なさを含めた割高な車両価格など「安さ」が強みの軽自動車との相性が課題だ。軽トップメーカーが手掛けた一台は、発展途上にある軽EV市場を拡大できるか。
「ガソリン車からそのまま(軽EVに)シフトできる自然なフィーリングを実現した」。スズキの役員は、初の軽EVに込めたこだわりをこう話す。
スズキの軽EV「eスカイ」はハイトワゴンタイプで、日産自動車「サクラ」、三菱自動車「eKクロスEV」、ホンダ「N-ONE e:(エヌワンイー)」と同じカテゴリーに属する。特定のターゲットユーザーを設定せず、既存の軽ユーザーの使い勝手を重視して開発した。
後発となるスズキは、各社の軽EVを研究するとともに、ユーザーの使い勝手を徹底的に調査した。eスカイでは、EVの特徴でもある発進時の力強い加速感を抑制するなど、軽の運転に慣れたユーザーでも不安を感じないような工夫を施した。買い物や送迎など毎日乗る車だからこそ、幅広い年代のユーザーがガソリン車から違和感なく乗り替えられるモデルを目指した。津幡知幸チーフエンジニアは「このタイミングだからこそ、スズキらしい車で勝負する」と語る。
軽EVを巡っては、BYDが7月28日に「ラッコ」を投入した。軽市場で最も売れ筋のスーパーハイトワゴンをEV化し、214万円からという価格で攻勢をかける。国内外のメーカーが軽EVを相次ぎ投入しており、選択肢は徐々に増えつつある。
ただ、軽市場に占めるEVの比率は1.4%(2025年度)にとどまる。価格が安く、燃費も良いガソリン車が圧倒的に支持されている。
加えてEVは、補助金に支えられている面も大きく、軽には不利に働く。ホンダが5月に発売した登録車の小型EV「スーパーワン」は、東京都の場合、補助金を活用すれば100万円台で購入できる。補助金の恩恵もあり受注を伸ばす一方、スーパーワンのベース車となった軽EVのN-ONE e:は低迷している。軽EVは登録車に比べて車両価格が低いが、補助額も少ないのが現状だ。“補助金ありき”のEV市場で、軽EVが日常の「足」として広く普及するには、なお時間がかかりそうだ。
こうした市場環境の中で、スズキはあえて「EVらしさ」よりも、従来の軽ユーザーが受け入れやすい乗り味や使い勝手を前面に打ち出す。車としての完成度には自信を示すが、車両価格や補助金の少なさといった厳しい販売環境の壁を越えられるかは未知数だ。軽販売で首位を走るスズキは、軽EVでも王者になれるのか。軽EV市場の行方を占う一台となりそうだ。
(藤原 稔里)




















