電気自動車(EV)生産受託の拡大を目指す、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業。昨年の年次イベント「テックデー」では次々と試作車を披露し、存在感をアピールした。スマートフォン(スマホ)受託製造で世界最大手に上り詰め、人工知能(AI)サーバーで業績好調の鴻海が、なぜ自動車産業に踏み込むのか。うかがえるのは、EVをスマホのような産業に変えるとともに、スマートシティーなどのデータビジネスへの入り口にできるとの目算だ。
台湾有数の大型展示施設。招待客向けと一般向けの2日間にわたって開かれた昨年のテックデーで、目玉の一つがEVだった。事業を率いる元日産自動車ナンバースリーの関潤氏が登壇。新モデルなどを披露した。
会場にはSUV「モデルC」、ハッチバック「モデルB」、商用EV「モデルN」など多様な車両を並べた。半導体やLiDAR(ライダー、レーザースキャナー)、電池交換技術、コックピットUI(ユーザーインターフェース)など、ハードとソフトの両面をアピールした。
鴻海の特徴の一つは、共通プラットフォームの上に多様な車種を載せられる設計だ。これは、スマホ生産で培ったモジュール化思想をEVに持ち込む試みとも言える。同社幹部はこれを「EV版アンドロイド」とも例える。EVを水平分業で量産できる産業に変える構想だ。鴻海は完成車メーカーではなく、シャシーや電池、パワートレイン、ソフトまでを共通化した「開発の土台」を提供する側に回ろうとしている。アンドロイドOSとアプリストアのような関係を、EVで築く形だ。内燃機関車に比べて構造が単純なEVは、垂直統合が前提だった自動車産業にも水平分業の余地を生んだ。鴻海はスマホで成功したモデルを移植できると読む。
鴻海は、電子機器受託生産(EMS)やサーバー関連事業が収益の柱で、売上高は約40兆円とトヨタ自動車に匹敵する。資金力が十分にある中で、EV関連事業はまだ将来のシーズ(種)と言える段階。短期の投資回収を見込む必要はないだけに、腰を据えて取り組める面も鴻海の強みと言える。
台湾のサプライチェーン(供給網)を束ねられる点も鴻海ならではだ。炭化ケイ素(SiC)半導体やディスプレー、カメラ、電池をグループや提携先で確保し、川上から川下までを賄える。商用EVでは、物流やタクシー事業者と直接対話し、多用途に使える設計を実現。性能のアピールよりも「機能は必要十分でアフォーダブル(手頃な価格)」を重視し、価格競争力につなげる。
日本市場では軽乗用車や軽トラックへの関心もにじませる。「理論上は100万円のEV軽トラも可能」(幹部)といい、中国勢のスピードとコストを強く意識する側面もある。
「スマホ流」のコスト対応策も特徴的だ。鴻海は部品メーカーが他社向けに量産する高性能で安価な標準品を、そのまま購入する。車体側を部品に合わせて変えることで、部品と開発、金型のコストを同時に削減する狙いだ。「極端に言えば、〇〇さんに納めているついでに生産してください、というスタンス」(同社幹部)と柔軟性を強調する。
一方で、ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)対応やイン・ビークル・インフォテインメント(IVI)など、付加価値となるソフト面には積極的に投資する。BtoB向けでは、稼働率と維持費を重視したバッテリー劣化管理「ダメージコントロール」構想も打ち出すなど、対話で仕様を詰める姿勢は、単なるメーカーではなく事業パートナーを目指す姿ともいえる。






















