電機業界の自動車関連事業の変革が、新たな段階に入りつつある。大手電機、総合電機といわれた各社は、従前の「自前主義」ではなく、自動車業界との協業による成長戦略を描く。三菱電機グループがアイシンとの共同出資会社を発表したのもその一例だ。自動車の電動化市場で存在感を発揮できるかどうか、真価が問われる。
■急速な環境変化
かつて、家電や情報機器などを幅広く手掛け「総合電機メーカー8社」とも言われたNECやシャープ、ソニーグループ、東芝、パナソニックホールディングス、日立製作所、富士通、三菱電機。テレビや半導体など広い分野で競ってきたが、事業再編を進め、会社の形も大きく変わり、自動車関連事業、特に車載部品事業のあり方が大きく変わった。
加賀邦彦三菱電機モビリティ社長は、アイシンとの共同出資会社について「話が出てきたのはこの1年以内のことだ」と急速な環境変化に対応したことを示唆する。次に想定する先進運転支援システム(ADAS)関連事業のパートナー先が注目される。
パナソニックも、パナソニックオートモーティブシステムズ(PAS)の株式を、米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントに売却し、共同で運営する。
その上でパナソニックが今年発表したのは、日産自動車との協業。家電を通じて住宅とクルマを通信で結び、クルマの移動情報や状態を音声で通知する新サービスを始める。こうした連携サービスをさらに広げることも目指す。グループを事業部門ごとに再編したことも、今回の外部協業を後押しした。
■重点はデジタル技術
グループの在り方が変わった電機メーカーの代表格は日立だ。デジタルやエネルギー、社会インフラなどを柱に据えつつ、開発の重点を生成AI(人工知能)分野などにシフト。グループを大きく見直し、20以上あった上場子会社はゼロになった。
こうした見直しの一環として、過半数を所有していた日立アステモの株式の一部をホンダに売却。出資比率は対等になり、社長もホンダ出身者へ交代。さらに、アステモの将来の上場を探っている。
5月に開催された「人とくるまのテクノロジー展」でも、アステモのブースでは、eアクスルなどの電動化部品と並んで、開発段階からデータのデジタル化に取り組む「IoV」(インターネット・オブ・ビークル)を訴求した。その背景には、日立が最重要分野に打ち出す「ルマーダ」がある。デジタル技術で顧客データを活用するソリューションである。
日立などと並び、事業再編の成功組に目されるソニーGは先の中計でも、ゲームや音楽、映画などエンターテインメントを事業の柱に打ち出した。ホンダとの協業でEV開発に取り組んでおり「モビリティを新たなエンターテインメント空間と位置付ける」と表明。さらに、それを支える半導体も強化する。
■シナジー創出が前提
ものづくりから「コト売り」を掲げ、子会社を切り出したパナソニック。デジタルを強化し、自動車部品会社への関与度を減らした日立。グループで自動車業界とのコラボを新たに進めるソニー。戦略はそれぞれ異なるが、自動車関連の取り組みで共通しているのは、経営資源の投入を「コアの競争力とのシナジーが期待できる分野」に絞っていることだ。
三菱電機は今回のアイシンとの協業では「マジョリティーを取らせていただき、社長も三菱側から出す予定。トヨタグループとの関係強化も想定する」(加賀氏)とのスタンスだ。インバーターなどの製品力を生かし、あえてティア2的な立ち位置を強めつつも、トヨタ、アイシンの側に浸透することを目指すもようだ。
アイシンからすれば、三菱電機との提携は電動ユニットのバリエーション拡充も狙いにある。例えば、eアクスルなど中国勢との競争が激しいユニットの開発では、価格競争の厳しい汎用品に重点を置くのか、高付加価値を目指すのかなど、課題は多い。ただ、シナジーをうまく引き出せれば両面からのアプローチを可能にしやすい。
しかし、「スマホ市場は頭打ち。ゲーム関連も厳しい。だが、車載では中国メーカーの短い開発サイクル、コスト要求の水準は厳しい」(大手電子部品トップ)との声も聞かれる。こうした中、自動車業界という新たなパートナーづくりを進める電機各社には、脱自前主義の成否が問われそうだ。
■先行する韓国勢
海外でも自動車と家電の連携が進み出してきた。家電のIoT化などで後れを取る日本勢に先駆け、韓国勢が歩みを強めている。
韓国ヒョンデと起亜自動車(KIA)の現代グループ、サムスン電子は2024年1月、車内と家電製品の相互接続ができる技術の開発で合意したと発表した。音声認識やディスプレーの操作によって、車内からユーザーの家庭にあるデジタル家電などを動かせるようにするものだ。自動車と家電のコネクテッド「カー・トゥ・ホーム」「ホーム・トゥ・カー」である。
その大元になったのは、サムスンがかねてから取り組んできた「スマートシングス」というIoT(モノのインターネット)技術。2023年の「CES」(米ラスベガスで開催される世界最大の電子機器の見本市)ではその技術を開放し、多くの家電と相互アクセスできるようにすると発表した経緯がある。
この技術が現代グループとの連携のコアになる。現代側は以前から、通信事業者などと協力して同様のサービスを照明や換気扇、エアコンなどで活用してきた。これをサムスンとの協業で多様化できるという。
■テスラとも連携
相互アクセスの具体的な活用シーンだが、例えば夕方、帰宅前にユーザーが車内でパネルを操作し、スマート家電を「ホーム(在宅)モード」に設定する。するとエアコンや空気清浄機などが設定時刻に動き出し、掃除ロボットが掃除を開始。帰宅時に家の中が、夏は涼しく、冬は暖かくなっているといった具合だ。また、出かける際に「アウェイ(外出)モード」にすると、家の中では掃除ロボットが、車の中では空調が動き出すなどする。
スマートシングスを使った車両と家庭の接続サービスは、海外展開も構想される。普及に向けて情報端末システムを開発し、オーバー・ジ・エア(OTA)などでアップデートする考えだ。
サムスンはスマートシングスで、米テスラとの提携も打ち出した。テスラの電気自動車(EV)やホームバッテリー、ソーラーインバーターなどと統合・連携が見込まれる。
■課題を抱える国内家電業界
韓国勢にやや遅れて、この分野に参入した日産とパナソニック。特に子育て世代などファミリー層の利用を見込んでいる。PASは、パナソニックグループとのシナジー創出を引き続き進めていきたい考えで、グループが掲げる「コト売り」の一環としてもサービスを手掛けていく。今後は「日産以外の自動車メーカーとも連携を探っていく」(同社)構えだ。
ただ、当面は海外展開は目指さず、国内での事業化を想定している。その背景は日本の家電業界が抱えるIoTの課題にある。
スマートホームの通信規格として本命視される「Matter(マター)」については、サムスンなどに加えて、アップルのスマートスピーカーといった陣営も加わってデファクト化(事実上の標準規格化)が進んでいる。その一方で、日本勢の対応は遅れている。パナソニックの関係者は今後、こうした家電のIoT規格化に合わせて、自動車陣営との協業が進むとみる。
PASは「サービスは多言語対応が可能」で、その点では海外展開のハンディはないという。ただ「リカーリング(継続的な価値提供)ビジネスを目指す」としつつ、課金の仕組みはまだ見えない。いたずらにサービスエリアを広げず、投資回収を勘案して事業領域を検討する必要がある。
自動車業界と電機業界の連携は、両者ともに持続的な成長に向けて不可欠な要素になった。ただ、日本勢はこの分野で出遅れ感がある。その巻き返しでは、連携を生かして存在感をどのように打ち出すのか、さらに事業モデルをどう描くのかが問われる。
(編集委員・山本 晃一)




















