空前の人気となった「アルファード」「ヴェルファイア」
自動車公取協の注意喚起文書(昨年11月)

 トヨタモビリティ東京(TM東京、佐藤康彦社長、東京都港区)が公正取引委員会から警告を受けた。人気車種の購入を希望する顧客にコーティングなど自社サービスの加入を強要していたという。独占禁止法が禁じる「不公正な取引方法(抱き合わせ販売)」に当たる恐れがある。公取委が抱き合わせ販売で自動車小売り事業者に警告を出すのは今回が初めてだ。きっかけは、コロナ禍で急増した転売への対策だった。

 TM東京は、少なくとも2023年6月から翌年11月まで抱き合わせ販売を行っていた。対象車種は「アルファード」「ヴェルファイア」「ランドクルーザー」。受注に際し、ボディーコーティングやメンテナンスパックの契約、トヨタファイナンスのローン利用、下取り車の入庫を強要していた。

 他のディーラーでも少なからず類似の事例があったようだ。関係者は「トヨタ系を中心に同様の販売手法を行う販社がここ数年、増えていた」と明かす。

 きっかけは21年ごろにさかのぼる。コロナ禍の半導体や部品不足で新車の供給力が大きく落ち込み、受注残が積み上がった。こうした折、人気車の発売と中古車相場の高騰が重なり、転売が横行し始めたのだ。転売や輸出目当ての新車購入は以前から少なからずあったが、コロナ禍で納期が大きく延びる中、一般の顧客にしわ寄せがいき、メーカーも対策を検討し始める。

 トヨタ自動車は、21年夏に発売した「ランドクルーザー(300系)」で、少なくとも一定期間は転売しない旨の誓約書を顧客に求め始めた。さらに注文内容などを管理するシステムを活用し、転売前提とみられる顧客への販売を控えるよう系列販社に注意を呼び掛けた。

 しかし、古物営業法に抵触する場合などを除き、転売自体は犯罪ではない。誓約書などの効果は限定的で、業を煮やした一部の販社は強権的な手段に出る。

 その一つが、顧客が現金で購入したにもかかわらず、車両の所有権を販社が一時的に保有する案だ。転売対策に効果的だが、現金購入であれば所有権は当然、顧客側にある。自動車公正取引協議会(鈴木俊宏会長)は「いかなる理由があったとしても権利の侵害に当たる」と指摘する。

 「現金での所有権留保が駄目ならローンの利用を必須にしよう」「〝転売ヤー〟には必要ないメンテナンスパックも条件にしよう」―転売対策として始まった対策は、一部の販社でいつの間にか一線を越えていく。こうした行為に対し、同業他社は「転売対策の名目で収益を拡大しようとしていたと捉えられても仕方がない」とあきれ顔だ。

 自動車公取協によると、転売対策を名目にした新車の不適切な販売に関する苦情は23年に50件あったが、24年は180件に跳ね上がった。事態を重くみた自動車公取協は昨年11月に文書で注意喚起。この結果、「徐々に新規の案件は減り、今はほとんどなくなった」という。それでも、オプション装備品の適切な提案手法などに関する研修会を開くなどし、不適切な販売手法の是正を図っていく。

 法令に抵触する販売手法はあってはならないが、本当に欲しい顧客への納車が長引いたり、輸出されてリコール(回収・無償修理)ができなかったりと転売行為の弊害があるのも事実。最近ではスズキが発売した「ジムニーノマド」が転売ヤーに狙われ、発売直後に新規受注を停止する事態に追い込まれた。スズキは混乱を避けるため、増産と転売の対策が整うまで新規受注を再開しないもようだ。

 ただ、ゲーム機器やキャラクターグッズなどの事例を見ても、適法性と実効性を両立する転売対策は容易ではない。メーカーの供給力にも限界がある中、コンプライアンス(法令順守)を徹底した上で、適切にユーザーに新車を提供していく手法を業界全体で考えていく必要がありそうだ。

(水鳥 友哉)