経営統合を発表する4社の首脳(2023年5月)
国内の同業は着々とシナジーを手にしている(いすゞ、UDトラックスの共同開発車)

 経営統合の発表から約1年半、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの協議がようやく動き出しそうだ。日野は1月に米国でのエンジン認証不正について当局と和解し、統合を進めるにあたり最大の懸案に区切りをつけた。小木曽聡社長は1月末の決算会見で「1日でも早く、1日でも遅れるのを避けたい」と最終契約への意欲を示したが、統合時期については明言を避けた。統合が足踏みしていた間、同業との差も開き始めているだけに、交渉を加速させる必要がある。

 日野と三菱ふそう、それぞれの親会社であるトヨタ自動車とダイムラートラックの4社は2023年5月に経営統合の基本合意を発表。トヨタとダイムラートラックが対等出資で持ち株会社を設立し、傘下に入った日野と三菱ふそうが開発や調達、生産などで統合を進めていくスキームをイメージしている。

 当初は24年3月末までに最終契約を締結し、同年中の統合を目指していたが「競争法などに基づく許認可の取得や、日野による認証問題への対応が続いている」として同年2月に日程の延期を発表。「4社間で具体的な合意に至りしだい、速やかに知らせる」としていた契約の締結時期や統合の実施時期について、開示はないままだ。

 日野のエンジン認証不正をめぐっては、米国当局の調査結果と北米と豪州の集団訴訟により巨額の和解金リスクを抱えており、統合の基本合意にもこの課題が含まれていた。24年9月期決算で2300億円と見積もっていた北米認証関連の損失は、米当局との合意により2584億円で確定。豪集団訴訟の和解金なども含めると、25年3月期の最終純損益は2650億円の赤字となる見通し。しかし、小木曽社長は「結果的に大きな数字になったが、ある範囲の数字に着地できた意義は大きい」と語った。22年から続いた認証不正による業績影響は今期で終結することになる。

 24年2月に無期限延期を発表した際、関係者から「破談する可能性もあるのでは」とささやかれていただけに、トヨタの幹部は「ようやく前に進むことができる」と胸をなでおろす。小木曽社長は「4社でやっていることでいつ頃とは言えない」と前置きしつつ「確定した内容に基づいて最終契約に向けての内容を進めている」と説明する。

 今後、確定した日野の損失などを踏まえ、最終的な契約条件を4社で協議していくことになるとみられるが、どの程度の時間がかかるのかはまだ見通せないようだ。

 日野と三菱ふそうがもたついている間、いすゞ自動車では21年に子会社化したUDトラックスとのシナジーが現れ始めた。商品補完の拡充に加え、23年には初の共同開発車も投入。インドネシアの生産機能を集約するなど生産面の協業も進めており、いすゞの南真介社長は「協業は第2段階に入っている」と話す。

 しかし、日野は三菱ふそうとの統合以前に、認証不正による影響を払拭し切れていない。脇村誠最高技術責任者(CTO)は「輸送業者は1台買うと長く使う。1回ブランドを変えると、変えた後のブランドで使い続ける。それを取り返すのは並大抵ではなく、これからが大変な戦いになる」と話す。すでに〝周回遅れ〟の日野は、統合が遅れれば遅れるほど、いすゞに差をつけられることになる。

 ダイムラートラックもおひざ元の欧州市場で「メルセデス・ベンツ」ブランドが苦戦を強いられている。24年の世界販売はグループで前年比12%減だが、メルセデス・ベンツに限ると同20%減だ。商用車にも押し寄せるカーボンニュ―トラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の潮流に対し、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の競争力を高めるためには、トヨタグループとの協業が欠かせない。

 トヨタの関係者も「グローバルで商用車の競争が激しくなる中、早く手を打たなければならない」と話す。協議の進ちょくや、4社がそろって最終的な統合時期を発表するタイミングを業界は注視している。