〝笑顔なき婚約会見〟と呼ばれた昨年12月23日の検討表明から約1カ月半、経営統合は破談となる。国や外資の思惑を含め、両社の今後や新たなパートナー探しが注目される。
破談の兆候はあった。ホンダの三部敏宏社長は、基本合意を表明した会見で「日産の救済」との見方を再三にわたって否定し「自立した2社でなければ経営統合が成就することはない」と明言。日産の経営再建計画が着実に実行される道筋を確認した上で「25年1月末をメドに経営統合の可能性を示す」と語った。
これに対して日産の幹部は「1月末メドの話はホンダ側が基本合意の直前に勝手に言い始めたことだ」と、ホンダに対して不信感を抱き始めたと明かす。一方のホンダ側も、再建計画が一向に進まない日産に不満を募らせていく。1月中旬になってもリストラ計画の全体像は示されず、時間だけが過ぎていった。
日産側にもそれなりの理由はあった。中国事業の不振や米国での収益悪化は事実だが「大幅な赤字を計上しているわけではない」(幹部)。人員削減や工場閉鎖に対する社内からの反発が強く、調整に手間取っているのだ。常務執行役員より上の幹部が50人以上もいて、意思決定に時間がかかる面もある。
ホンダの三部社長は、内燃機関車からの撤退やF1(フォーミュラワン)への復帰、ソニーグループとの電気自動車(EV)共同開発など、矢継ぎ早に経営判断を下してきた。それだけに、社内調整に手間取る日産にいら立ちを隠せないでいたようだ。
膠着(こうちゃく)した協議を前進させようと、ホンダは基本合意していた共同持ち株会社設立による「対等な精神での統合」を破棄し、子会社化を日産に打診する。日産の再建を主導することで財務体質の改善を図れると考えたからだが、もう一つ理由があった。三菱自動車の存在だ。
ホンダと日産の経営統合には三菱自も参画を検討していた。しかし、アジアを主戦場とする三菱自がホンダと日産の経営統合に合流してもメリットが薄いことから、合流せずに提携関係を維持する判断に傾きつつあった。ホンダは三菱自の強みであるプラグインハイブリッド車(PHV)やピックアップトラックに興味を持っている。日産は三菱自に約24%出資しており、日産を子会社化すれば、三菱自と資本関係ができるというわけだ。
しかし、子会社化の打診を受けた日産の社内には「対等の精神を反故(ほご)にされた」と反発する声が広がった。日産の役員にしても、特に社外取締役はホンダ主導の経営統合にもともと不満があったようだ。このような経緯もあり、日産の経営陣は協議の打ち切りを決めた。
とはいえ、昨年8月に合意したEVの基幹部品の共同開発などは続けていくとみられ、三菱自も今春ごろまでに、ここに合流することを検討する見通し。ただ、協業には相互不信を解消する必要もあり、先行きは不透明だ。
今後の焦点はまず、日産の経営再建だ。依然として新車販売の不振が続いており、財務体質を改善するためにもリストラが不可欠だ。内田誠社長CEO(最高経営責任者)は昨年11月、「スリムで強靭(きょうじん)な事業構造の再構築と、事業のコアである商品力を高め、再び日産を成長軌道に戻す道筋をつけることが社長としての最大の役割」と述べ、引責辞任をひとまず否定した。しかし、ホンダとの協議を通じてリストラ推進の実行力が問われており、経営体制の刷新を求める声が日産社内でも高まっているという。
一方のホンダも成長戦略を再構築する必要がある。日産との経営統合を検討したのは、比亜迪(BYD)などの新興勢力が電動化や知能化で存在感を増す中「単独で生き残るのは難しい」と判断したためだ。次世代技術の開発で頼りにしてきたゼネラル・モーターズ(GM)は現代自動車グループとの包括提携を検討しており、ホンダとの関係は薄れそう。ただ、自動車メーカーのグループ化はすでに進んでおり、次のパートナー探しは難航必至だ。
社風や社員の気質、生い立ちが異なるホンダと日産の経営統合は〝水と油〟と言われた通り、成就することはできなかった。しかし、自動車産業の変革は待ったなしの状況だ。ホンダ、日産ともに、生き残りに向けた新たな一手を早期に模索することが求められる。
(編集委員・野元 政宏)















