「(現場・現物・現実の)三現主義を原理・原則にしないときちんとした改善ができない。これが私の基礎になっている」―若い頃、生産子会社、ロームアポロへ出向してから現場を重視してきた。

 2011年のタイの洪水では多くの日系企業が被災する中、浸水していなかった建屋の2階を使って生産を続けることを主導した。松本功社長が自身の後継者に選んだのは「決断力を持っていること」が理由だ。本人は「早く決断するのは良いことだと思っているが、周囲からは『もっと慎重になりなさい』と言われるが…」と笑う。

 需要の増加を見込んでいた電気自動車(EV)向けSiC(炭化ケイ素)パワー半導体が低迷し、今期は12年ぶりの最終赤字に転落する見通し。業績の早期立て直しを主導することへの躊躇(ちゅうちょ)は少なからずあった。昨年10月に社長就任を打診された時は、ロームアポロの経営改善活動が途中だったこともあり「1年待って欲しい」と答えたという。その後、松本社長と話し合う中で「痛みを伴う改革を不退転の決意をもってやり切ることが自分の使命」と考えるようになり、引き受けた。

 余剰な生産能力を削減するため、生産拠点の集約などリストラに着手する意向だ。「働いている人にとっては大変で簡単ではないが、そこまで踏み込み、見極めるのが最初の大きな仕事になる」と決意を示す。

 業績が好調だった頃を「他社にない製品や技術を考え、製品化していた」と振り返り「今は売れている製品もあるがオンリーワン製品は少ない。まずはチャレンジできる会社に戻す」と意気込む。果敢な〝選択と集中〟で以前の輝きを取り戻せるか、注目される。

 

〈プロフィル〉あずま・かつみ 1989年に名古屋工業大卒後、ロームに入社。13年に取締役、17年に専務取締役、20年に取締役・専務執行役員COO、24年4月にCOO職を外れ取締役・専務執行役員。25年4月1日付で社長就任予定。60歳。愛知県出身。

(野元 政宏)

(2025/1/30修正)