金融庁は1月24日、トヨタ自動車の完全子会社で大手自動車ディーラーのトヨタモビリティ東京(TM東京、佐藤康彦社長、東京都港区)に対し、同日付で行政処分(業務改善命令)を出したと発表した。新車ディーラーに保険業法に基づいた行政処分が出されたのは初めて。中古車販売のグッドスピード(加藤聡社長、名古屋市東区)にも同様の処分が出た。2社に対して経営責任の明確化や、2月21日までに改善計画の提出を求めている。
2社は損害保険会社と契約し、保険代理店として自動車損害賠償責任(自賠責)保険や任意保険を販売している。「保険募集業務の経営管理体制に重大な欠陥が生じていた実態が見過ごされていた」(加藤勝信財務相兼金融担当相)という。
TM東京は、特に顧客情報管理体制で問題があった。個人データ管理は利用者の識別やアクセス制限など幾十にも厳しい措置が必要だが、同社ではアクセス権限やパスワード設定を各部署の判断に委ねていた。3年間にわたり複数の損害保険会社の社員に対して個人データ(約2.3万件)のアクセス権限を与えていた。その結果、外部からTM東京の個人情報が見られるようになっていて、金融庁は大規模な情報漏洩事案と認定した。現時点で悪用されたことは確認されていないようだ。
社員や入社希望学生の個人データ(9489人分)を個人のUSBで外部に持ち出し、紛失するケース(2024年秋に公表済み)もあった。
また、推奨保険会社を選定して商品を推奨する場合は、推奨理由の説明が義務付けられているが、理由を説明していなかったり、個々に適当な理由を創作して説明をしていたりした。担当役員も知識に乏しく、店舗ごとの推奨理由を定めていなかった。
同社の経営陣について、保険事業については「本業ではない」との意識が根底にあり、十分な人的な手当てをせず、内部統制上重大な欠陥があった、と指摘した。
グッドスピードについては、不適切な自動車保険金の不正請求事案が表面化した23年、社外取締役監査等委員を調査委員長とする社内調査をしたが、調査委員長が調査結果の内容を改ざんするなどしていた。社内アンケートで、不正について「上司の指示があった」との従業員の回答を、「上司からの指示と感じた」とし、組織的な関与を弱めるなどした。保険業務に関する人員体制も不十分だった。
金融庁は2社へ検査に入った理由について、これまで保険金の過大請求や不適切事案が表面化していたため、とした。
23年7月に表面化した旧ビッグモーターの自動車保険金の不正請求問題をきっかけに、保険業界改革の議論が進んだ。金融庁は改正保険業法案を1月24日からの通常国会に提出する。これらの動きと並行して2社に対して立ち入り検査を実施していた。
金融庁は、中古車販売のガリバーを展開するイドムにも立ち入り検査をしているが、この件については「コメントを差し控える」とした。