ボッシュが手掛けるECU診断機「KTS560」「KTS590」。セットで提供する診断ソフトウエア「ESI[tronic]」は、世界150以上のブランド・9万台以上の車両を網羅する。今年10月に始まる車載式故障診断装置を活用した自動車の電子的な検査(OBD検査)の法定スキャンツールにも対応し、1台でOBD検査と保安基準に不適合だった車両の故障個所の特定と整備、診断が可能になった。

 現行の診断ソフト「ESI[tronic]Evolution」は、乗用車や商用車など幅広いブランドのデータを搭載し、メンテナンスや配線図、トラブルシューティング方法へのアクセスが可能になる。車両のアップデートデータを随時配信しているものの、インストールはバックグランドで実行されるため、メカニックの日々の業務に与える影響はない。

 現在、ESI[tronic]ではカバレッジの拡大を図っており、電気自動車(EV)のカバー率でも世界をリードしている。EVは新旧の自動車メーカーが相次ぎ投入しており、整備業界の対応は避けられない。ボッシュはこれからもトップを維持し、整備工場のEV対応を支えていく。

 日本の自動車メーカー車のカバー率の向上にも取り組んでいる。2025年末までに、各メーカーで車両と車載装置のカバー率を95%に引き上げる方針を打ち出している。ボッシュは自動車機器のグローバルプレーヤーとして抜群の認知を誇るが、欧州発ゆえに日本の独立系整備工場からは海外メーカー車(輸入車)に特化したサプライヤーという印象が根強い。カバー率の目標設定は、日本のアフターマーケット市場への揺るぎないコミットメントを示すもので、ECU診断機として日本での地位を確かなものにする大きな1歩だ。

 診断ソフトとして競合機種に先行するのは、車両のサイバーセキュリティーへの対応だ。サイバーセキュリティーから車両を保護するセキュアゲートウェイ(SGW)でセキュリティー保護された診断を実行可能にする「セキュア ダイアグノスティック アクセス(SDA)」機能をいち早く実装した。セキュリティー保護された車両は先進運転支援システム(ADAS)などのエーミング作業だけではなく、オイル交換時のサービスインターバルリセットさえも実行できなくなる可能性がある。現在は、フォルクスワーゲン(VW)やアウディ、メルセデス・ベンツなど海外メーカー車のほか、スバルや日産自動車など日本メーカー車への対応も順次進めている。

 ボッシュのSDAは各メーカーのセキュリティーアクセス権を一元管理し、ESI[tronic]ユーザーが診断機能を実行することを可能にした。追加の費用も必要としない。各自動車メーカーのサイバーセキュリティー対策は異なっており、それぞれの車両のアクセス権を取得するにはメーカーごとに登録、契約や支払い条件など個別の対応が必要となるケースがある。国内外を合わせると数多くのブランドの車両が流通する国内市場で、整備工場が自動車メーカーと個別契約するのは現実的ではない。自動車技術の高度化で整備の難易度や複雑さは増していくばかり。SDAが標準機能として実装されることで、将来的な整備工場の工数や費用の低減や効率性に大きく貢献する。

 また、日本自動車機械工具協会の検査用スキャンツールの型式試験に合格し、KTS560(JASEA―KS―30)とKTS590(JASEA―KS―31)がそれぞれ6月7日に認定を受けた。これを受けて、7月30日から先着順で受け付けを開始する2024年度の先進安全自動車の整備環境の確保事業(スキャンツール補助金)の対象機種となる見通しだ。スキャンツールの買い替えや機種の拡充を検討している整備工場にとって、補助金の活用は手に取りやすくなる絶好の機会だ。1台でOBD検査と車両診断、整備が可能で、セキュリティーで保護された車両の診断も可能にするKTS560/590の各機種は将来の事業運営を見据えた上でも選択すべき1台となる。

 KTS560/590の各機種を既に所有するユーザーは、配信済みのファームウエアのアップデートを行うことで所有機を検査用スキャンツールに対応させることが可能だ。既存ユーザーには絶縁対策として、ACアダプターとマイクロSDカードの差し込み口に蓋をするキャップとダミーカードを順次発送していく。将来的には、海外メーカーから搭載が始まっているOBD検査における車両とスキャンツール間の通信プロトコル「ISO13400(DoIP方式)」への対応も予定するなどOBD検査への万全のサポートを展開していく。

 KTS560/590はECU診断に加えて、電圧、抵抗、電流を測定するマルチメーターの機能を持つ。590には2チャンネル式オシロスコープを搭載し、即座に波形の解析をすることが可能だ。