クレハは、中国・常熟市でリチウムイオン二次電池のバインダーなどに使用されるフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)の生産能力を増強する計画を中止すると発表した。米国のインフレ抑制法(IRA)によって中国からの輸出が困難になったためとしている。

 同社では車載用リチウムイオン電池の需要拡大に対応するため2021年7月、常熟市にある子会社の呉羽(常熟)フッ素材料でPVDF製造設備の増強を決定。常熟市にある新材料産業園区内に、最大200億円を投じてPVDFを製造する工場を新設する計画だった。ただ、米国の電気自動車(EV)に対するIRAによって中国から米国への輸出が困難となったことから、能力増強を中止する。

 今後のEV向けリチウムイオン電池の需要増加に対しては、昨年8月にPVDF製造設備の増強を決めたいわき事業所(福島県いわき市)で対応していく。

 中国の既存のPVDF製造設備は主に中国、欧州向けに生産を継続する。また、中国市場のEV向け駆動用電池としては、需要が拡大しているリン酸鉄系リチウムイオン電池向けに差別化したグレードを開発し、受注を開拓していく方針。事業環境の変化に対応して中国へ再投資する可能性もあるとしている。