ネロスで効率的に積載した全長25㍍の連結トラック
豊田自動織機の自動運転フォークリフト
5月に走行実証を開始した燃料電池大型トラック

 2024年4月にトラックドライバーの時間外労働時間の上限規制が強化され、国内の輸送能力の不足が懸念される物流の「2024年問題」まで1年を切った。自動車業界では、自動車メーカーが中心となって物流効率化などで輸送量を削減する対策が検討されている。こうした中、日野自動車の子会社で、荷主や物流事業者が出資するネクスト・ロジスティクス・ジャパン(NLJ、梅村幸生社長、東京都新宿区)は、業種の垣根を越えて物流効率化を模索している。

 NLJは、日野が18年に業種横断的に複数の荷主の荷物を混載して幹線輸送の効率化を図ることを目的に設立し、19年に事業を開始した。飲料大手のアサヒグループジャパンやタイヤのブリヂストン、食品加工の江崎グリコなどの荷主、鴻池運輸やトランコムなどの物流事業者、決済システムを提供する三菱UFJ銀行など、幅広い業種から19社が出資し、出資していない企業も含めてすでに40社以上が参画している。

 NLJが現在、取り組んでいるのが神奈川県相模原市と兵庫県西宮市間の幹線輸送だ。世界初となる全高4・1㍍のダブル連結トラックを活用して重量や荷姿、出荷タイミングの異なる荷物を集荷・積載して輸送する。業界平均では4割程度とされる積載効率を60%に高めることができた。荷主が1社の場合、荷物を目的地に運んだ後の帰りの便は「空便」となるが、NLJが推進するプロジェクトに参画する荷主の輸送需要を組み合わせることで積載効率向上を実現している。

 ただ、荷主の数が増えれば増えるほど、積載する荷物をトラックの荷台にうまく配置して積み込む積み付けの複雑さが増す。そこでNLJが導入したのが量子コンピューティング技術を活用する自動配車・積み付けシステム「NeLOSS(ネロス)」だ。ネロスは、荷受け後、積み付けと配車の最適解を短時間で自動算出するシステム。人で2時間以上要していた配車と荷物の積み付けする業務を、量子コンピューター技術を使うことで40秒に短縮できる。

 昨年12月に運用を開始した。23年度中に、稼働中のトラックの荷物の積載状況を考慮して積み付けを最適化できるように改良する予定で、24年度には運行ルートや運行ダイヤも最適化できるように算出するシステムを開発する。

 NLJでは、ネロスの導入によってドライバーの賃金アップにつながる効果を期待する。厚生労働省の21年賃金構造基本統計調査の結果から試算すると大型トラックドライバーの平均年収は約463万円と、日本全体の平均年収と比べて20万円ほど高い。以前はトラックドライバーの年収は低かったが、人手不足などから上昇してきた。ただ、来年4月の残業時間の上限規制が強化され、年収が減ること懸念するドライバーも少なくない。NLJでは、ネロスなどを活用することによる業務効率化で浮いたコストを、ドライバーの年収を引き上げる原資に活用してもらい、さらに人材確保するという好循環につなげていくことを支援する。

 企業の事業活動での脱炭素化が強く求められる中、物流効率化は二酸化炭素(CO2)排出量削減にもつながる。運輸部門は日本全体のCO2排出量の約2割近くを占めるが、中でも貨物自動車は運輸部門の4割のCO2を排出している。NLJによると、物流効率化スキームの導入によって、事業開始から今年3月まで、従来の方法で荷物を輸送した場合と比べてCO2を1075㌧削減できたと試算している。今年5月には、走行中のCO2排出量がゼロの燃料電池大型トラックの走行実証を開始し、車両単体でのCO2排出量削減にも取り組む方針で、今後、水素ステーション併設型物流拠点の新設も検討する。

 経済産業省と国土交通省は、物流の2024年問題の解決策の一環として、輸送需要や倉庫の空き状況など、物流に関するデータを集約して見える化することで、複数の荷主が倉庫や輸送車両をシェアする「フィジカルインターネット」構想の推進を掲げる。NLJが推進しているスキームは、構想を実現する上でのベースになる可能性もある。