試走会にも足しげく通う(撮影:伊藤編集長)
モータースポーツ好きの経験生かす(撮影:久家カメラマン兼記者)
カメラマン兼記者の久家さん(左)と企画・運営担当の浦野さん(右)は伊藤編集長の思いに共感しメンバーに
昨年9月開催の「第20回学生フォーミュラ日本大会2022」は京都工芸繊維大学が優勝した
ガクセイフォーミュラジェーピーを立ち上げた伊藤将成編集長
車両整備に余念のない出場者
https://gakusei-formula-jp.website/

 「学生フォーミュラ大会の認知を向上させたい」。そう語るのは学生フォーミュラの専門メディア「ガクセイフォーミュラジェーピー(ガクエフジェーピー)」の伊藤将成編集長だ。大学で機械工学を学ぶかたわら、学生フォーミュラをたくさんの人に知ってもらいたいとの思いで2022年6月にウェブメディアを立ち上げた。伊藤編集長も大会参加経験があり、チーム運営・マシン製作の苦悩と喜びを知る立場だ。そうした経験を生かしながらメディアを通じ大会の認知を高めて、「より多くの観客を会場に集める」(伊藤編集長)ことを目指す。

 学生フォーミュラ大会は自動車技術会(自技会、大津啓司会長)が主催。将来の自動車業界を支える技術者の育成を目的に、車両の設計・開発・製作コスト・ビジネスモデルのプレゼンテーションまで、トータルなクルマづくりのアイデアと技術力を学生に競ってもらう「ものづくり・デザインコンペティション」だ。ただ新型コロナウイルス感染症の流行拡大の影響で、2020年は開催中止。21年はコストや車両コンセプト、デザインを評価する「静的審査」をオンライン上で行い、走行性能を実際に競う「動的審査」については代替イベントの実施にとどまった。

 昨年の第20回大会は静的審査が引き続きオンラインとなったが、動的審査と車検が3年ぶりに静岡県の小笠山総合運動公園(エコパ)で行われた。デザイン審査で高得点を獲得した車両をレビューする「デザインファイナル」との〝ハイブリッド開催〟となり久々の賑わいを見せた。

 大会を盛り上げたいと立ち上がったガクセイフォーミュラジェーピーの運営メンバーは現在、伊藤編集長と記者兼カメラマンの久家怜さん、企画・運営担当の浦野一真さんの3人。いずれも都内大学に通う学部3年生で、大会経験者だ。久家さんと浦野さんは昨年までそれぞれ大学チームの一員として活躍。「素晴らしい経験ができる学生フォーミュラが多くの人に知られていないのはもったいない」(浦野さん)と伊藤編集長の思いに共感し、メディア運営に加わった。

 彼らは本大会のみならず、大会参戦に向けた舞台裏の活動も精力的に取材する。「これまでのメディアは、大会当日の模様やマシンしか取り上げてこなかった」(伊藤編集長)ことに物足りなさを感じてきた。

 このため自らのメディアでは参戦経験と工学系の知識を生かし、マシン設計・製作の過程やテストラン、そして大会参戦まで活動全体を通じた情報発信に取り組む。各校はSNS(会員制交流サイト)のアカウントを持つものの、マシン製作に追われて、スポンサー獲得などで重要な広報活動には手が回らなくなりがちという実情がある。「広報でマシンが速くなるわけではなく、力の入れ方もさまざま」(伊藤編集長)だという。そうした中で「各校の広報の代わりができれば」と、専門メディアを立ち上げた狙いの一端を述べた。

 大会参戦にはマシンの走行性能を追及するだけではなく「商品企画や販売戦略のプレゼンテーションを競ったり、チームやコストのマネジメントなどビジネス視点での魅力がある」(久家さん)という。さらにスポンサー集めなど「学生の域を超えたものづくりのコンペティションという側面も多くの人たちに伝えていきたい」(伊藤編集長)と強調する。

 3人がメディアで学生の〝広報代行〟として力を入れる一つが「にわかファンを増やす」(浦野さん)ことだ。そのきっかけとしてSNSによるコンテンツ発信にも挑戦している。「モータースポーツに詳しくない人にも届くようにしたい」と、前回大会では「かっこいいマシンランキング」を制作した。「エンターテインメント性を重視した」コンテンツで、学生フォーミュラに興味を持つ間口を広げようと試みている。

 今後は「各校ドライバーによる『カート対決』を企画したい」と話す。その一方で、専門知識を生かした「読み応えのある記事も配信していきたい」(久家さん)と剛柔織り交ぜたコンテンツ発信を視野に入れる。

 今シーズンも昨年以上に精力的な取材を展開する計画だ。8、9月の大会に向けて、春休み中の全チーム(約70校)取材を目標としている。ただ、現在は手弁当で運営しており、全国の出場校に赴くための交通費をはじめとした予算捻出に頭を悩ませる。「スポンサーと(運営を引き継いでくれる)メンバーを募集している」(伊藤編集長)と明かす。学部3年生の3人が就職や進学で忙しくなる前に、メディア存続に道筋をつけて、学生フォーミュラの継続的な盛り上げ役としての立ち位置を固めたい考えだ。

【ガクセイフォーミュラジェーピー】

2022年6月に大学生の伊藤編集長が立ち上げた学生フォーミュラ専門メディア。現在はメンバー全員が学生フォーミュラ経験者の3人体制。本大会や試走会、チームなど精力的な取材を続けている

(村上 貴規)