日本経済団体連合会(経団連)の委員会に自動車産業を軸とした「モビリティ委員会」が発足した。参加企業は自動車業界をはじめ、エネルギー、航空、鉄道、観光、金融など200社を超え、自動車の枠にとらわれないモビリティ産業の成長戦略を打ち出す。委員長に就いたトヨタ自動車の豊田章男社長は「自動車業界だけの活動では、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の達成は難しい」と漏らす。モビリティ委員会という「政府にも対峙できるルートを作る」(豊田委員長)ことで政府への政策提言を加速させる狙いだ。
豊田委員長はこれまでも日本自動車工業会(自工会)トップとして再三、「カーボンニュートラルでは自動車産業をど真ん中に」とアピールしてきた。コロナ禍ではサプライチェーンの混乱や経営悪化を受けて、日本自動車部品工業会や日本自動車販売協会連合会(自販連)など5団体として自動車関連の政策要望活動を展開。ただ、日本の基幹産業である自動車業界であったとしても、業界団体の枠組みだけでは政府と相対するには十分ではなかった。
経団連では政策や産業、地域などさまざまな分野で議論する委員会が約50存在する。モビリティ委員会の設立について、経団連の十倉雅和会長は「日本経済をけん引する産業構造の構築と成長産業の育成が急務。モビリティ産業は成長と分配の好循環を実現する上で大きな役割を担う」と説明する。また、事務総長の久保田政一副会長は「豊田社長が考えるコンセプトとわれわれが考える『競争力強化』が合致した」と述べる。同委員会では、自動車産業が移動やエネルギーなどに関連する企業と手を組むことで社会課題の解決や新しい価値を創造することが可能となり、モビリティ産業として成長領域が拡大すると説明する。
政府が打ち出す「デジタルトランスフォーメーション(DX)」、「グリーントランスフォーメーション(GX)」の関連投資計画も自動車関連が他業界に比べて規模が大きい点を強調する。また、同委員会では国内のスタートアップ支援にも乗り出す方針だ。2023年には、東京モーターショーの名称を変更して開催する「ジャパンオールインダストリーショー」において、スタートアップ企業のPRや資金調達ができる場を用意する。
30年の時点で、モビリティ産業の発展に伴う経済プラス効果は36兆円、雇用は150万人増えると試算する。同委員会ではこうした成長に必要な政策も提言する。欧州を中心に進める電気自動車(EV)オンリーの政策ではなく、地域のエネルギー事情と産業政策が連動した日本に最適なロードマップの策定が重要であることを指摘。国際競争力を高めていく議論を進め、23年5月に広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)に向け日本版GX戦略を打ち出す方針だ。こうした取り組みは「新興国のGXでも貢献できる」と豊田委員長は強調する。
同委員会では、自動車業界の悲願であった関連税制の抜本的な見直しについても踏み込む。経済成長を促すモビリティ分野の財源は新たに生み出される税収を活用すべきと提言し、自動車関連税制も新産業による受益者の拡大を踏まえた中長期的な見直しを検討する。
課題は、委員会の枠組みをどう実業に結び付けていくかだ。脱炭素社会実現には各産業がばらばらに動いていては効率が悪いが、エネルギー産業をはじめ航空や鉄道など運輸業界と連携を図る上で自動車を含めてどの産業が主体となり役割を分担していくかを決め、モビリティ産業全体に好循環を生み出す必要がある。「財界総本山」の要職に就いた豊田委員長の今後の手腕が注目される。
(福井 友則)