ブレンボ・ジャパン(ファビオ・カサブランカ代表取締役、東京都大田区)が、市販ブレーキシステムのラインアップを拡充して新製品を投入している。モータースポーツで培うブランドは走行性能を求めるユーザーから根強い人気を得ており、グレード体系を整理して顧客の嗜好に沿った商品展開を進めることで、さらなる拡販を目指す考えだ。半面、ブレーキは不適切に装着すると、十分な性能を引き出せないだけでなく安全上のリスクもある。信頼できる販売店との関係強化など、流通面での施策も打ち出し、市販分野での売上高を2025年に20年比で3倍にまで引き上げたい考えだ。(内田 智)
同社は今年4月、市販ブレーキシステムの新シリーズ「アップグレード」を設定し、エントリー向けの「スポーツ」、サーキット入門者向けの「ピスタ」、最上位の「GT」の3グレードを展開すると発表。全世界で同時展開し、国内でも発表に併せて一部製品の販売を開始した。従来、同社の市販ブレーキシステムはGTに相当する高機能・高単価製品が販売の中心だったが、新たに普及価格帯のラインアップを拡張し、ユーザーの裾野を広げる。
ニーズに応じた商品群を細かく設定する背景にあるのは、メーカーが意図しない流通・装着が横行している実態だ。板東祥広ブレンボパフォーマンスマネージャーは「ショップで個々のパーツを組み合わせても、適切なチューニングになるとは限らない」と話す。市中では中古品などが単体パーツとして流通している実態があるが、ブレーキ周辺の安易な交換は性能を引き出せないだけでなく、安全上のリスクも懸念されるだけに、「ブレンボはパーツの単品売りはせず、キットとしてのみ提供している」(同)。最適な組み合わせをメーカー自ら設定するとともに選択肢を複数用意することで、安全性と顧客ニーズの双方を満たす狙いだ。
とりわけエントリーグレードとして設定するスポーツで開拓を図るのが、地域部品商や新車ディーラーなどの販路だ。高性能・高単価な製品は根強いファンが少なくない半面、顧客層が限定的なことから、従来はカスタマイズショップや用品店など専門業態での取り扱いにとどまっていた。一方で、街乗り中心のユーザーの間でも、性能向上やドレスアップを目的とした市販ブレーキ装着のニーズは少なくない。純正ブレーキからの交換を提案しやすい価格帯とすることで、ディーラーや整備工場の入庫客など、従来接点に乏しかった潜在的顧客層にアプローチしたい考えで、今後は取り扱い事業者も増やしていく方針だ。
販売強化の一環として、今後は優良販売店の認定なども制度化を検討していく。「25年には市販四輪領域で売上高を20年の3倍に引き上げる」(同)との目標を掲げる中、各地域での販売を中心的に担う有力販売店を設置したい考えで、販売数量や整備能力などを総合的に勘案して年内にも対象事業者を取りまとめる方針だ。
こうした販売施策を実行するために欠かせないのが、信頼できるパートナーだ。国内展開を強化する中で、代理店として最大手の橋本コーポレーション(橋本晃社長、京都市右京区)との連携を強化。ラインアップ拡充には市場ニーズの把握や適合検証が欠かせないが、車両調達や解析などでも二社が協力してスピーディーな開発につなげる。
すでにトヨタ自動車「アルファード」向けなど、新たに開拓したボディータイプでも商品展開を進めており、「(製造を担うイタリア本国と)日本の市場ニーズについて情報共有を積極的に進めたことが製品化につながった。将来的には市場傾向の近い東南アジア向けなどでも開発ノウハウを生かせるのでは」(ブレンボ・ジャパンのカサブランカ代表取締役)という。橋本コーポレーション側も「スポーツカーを含め近年の新車は車重が増加傾向にあることに加え、ホイールも大径化しており、ブレーキも車両に見合った性能やサイズが求められている。市販分野は今後ますます交換需要が伸びる領域ではないか」(林敦執行役員営業本部長)と期待を示す。
電動化の進展による自動車部品・用品の点数減が避けられない一方、ブレーキは今後も走りに不可欠な部品であり続ける。完成車メーカー向け事業やモータースポーツで培ったブランド力を生かし、市販領域で次の一手を講じる。