オンデマンド交通サービスの利用イメージ
スマートフォンアプリはシンプルで使いやすいUIを目指した
新システムで配車管理を効率化
プロジェクトを担当した岩城氏、加藤早恵氏、工藤氏(右から)
乗り合いサービスのほか、4月にはカーシェアサービスにシェアサイクルなど外部サービスを連携させる取り組みも開始

 ホンダは、13日から栃木県宇都宮市と新しいオンデマンド型の交通サービスの実証実験を始める。人が運転する車両で高齢者らの移動支援の方策を試す。同社は2020年代半ばをめどに自動運転車を用いたモビリティサービスを実用化して、さまざまな社会課題の解決に貢献していく考えだ。ただ、免許返納や過疎地の交通機関の縮小にともない、すでに移動困難になった人が多数存在する。中長期を見据えた自動運転技術と並行して、有人運転車でモビリティーサービスのノウハウを構築し、早期の課題解決につなげる。

 ホンダがオンデマンド交通サービスの実証実験を実施するのは、約3万5千人の市民が居住する宇都宮市河内地区と、約9600人が居住する同清原地区。両地区ともに住民の高齢化と公共交通機関の縮小が進んだため、地域内の移動の足の確保が課題になっていた。

 現在、地域住民の近距離移動の要は、同市が08年から各地区に導入してきた乗り合いタクシーだ。河内地区では「さぎそう号」というタクシーが午前は3台、午後は2台ずつ走行している。サービスの利用登録は780世帯で、年間延べ利用者数は1万8千人に上る。

 一方、その利便性には改善の余地が散見される。さぎそう号の場合、利用者は出発30分前までに電話で予約しなければならいほか、タクシー便数は1時間に1本に限られる。オンデマンド型の交通サービスではあるものの、リアルタイムに利用しにくいことに不便さを感じる声があった。

 同市では23年に次世代型路面電車「LRT」の開業を予定する。しかし、LRT駅までのアクセス性を高めるように地域内の交通網を充実できなければ、路面電車による移動の活性化効果が薄れてしまう。そこで、乗り合いタクシーのシステム再構築に乗り出した。

 同市が白羽の矢を立てたのは、県内に研究拠点を構える地元企業のホンダだった。同社は19年春に市の要請を受けて配車・予約システムの開発に着手。アンケート調査から得た利用者の声やタクシー事業者の意見を分析し、システム構築に漕ぎつけた。

 同社が開発したのは、スマートフォンでタクシーが予約できるシステム。河内地区の実証実験の場合、出発の15分前まで予約可能になったほか、今まではドライバーやオペレーターが経験に頼り自ら設定していた運行ルートの自動計算を実現。こうして30分単位でタクシー便を運行できるようにするなど効率化を実現した。

 オンデマンド乗り合いサービスでは、「チョイソコ」を手がけるアイシンが先行した。しかし、後発ではあるが、ホンダは400万台の「インターナビ搭載車」から膨大なプローブ情報を得られることが大きな強みになる。プローブの活用で送迎時間予想の精度が向上したほか、降車時間の指定ができるようになった。河内地区の場合、バスや電車の乗車時間に合わせてタクシー降車時間が指定できるため、他の交通手段との連携性が高まった。

 ただ、課題は多い。より広い地域で本格運用していくためには、ビジネスモデルの確立などクリアしなければならない壁がある。

 ホンダのモビリティサービス子会社のホンダモビリティソリューションズ(HMS)でシステム開発を担当する岩城亮平氏は「システムをどこまでローカライズするか」と述べ、地域や住民によって差異があるニーズをどのように反映してシステムを最適化するべきかを課題に挙げた。

 プロジェクト発足時からリーダーを務めてきた工藤芳子氏は「今回の実証を通じてモビリティサービス事業全体の知見を獲得したい」と狙いを明かす。4月に野心的な電動化戦略を発表したホンダだが、30年に向けた長期ビジョンで掲げる「eMaaS」の実現にはモビリティサービス領域の知見獲得が大前提。今回の実証実験をはじめ、昨年2月に立ち上げたHMSを中心に据えて、車の新しい活用方法を多面的に模索していく考えだ。(水鳥友哉)