新菱のカーボンリサイクル施設

 化学繊維大手が炭素繊維(CF)やガラス繊維(GF)などを使用する複合成形材料の自動車への採用に向けた活動を本格化している。鋼板やアルミニウムと比較して高コストで、生産性に課題があるものの、デザインや設計の自由度が高く、車体の軽量化が図れるのが強みで、一部量産車に採用されている。今後、LCA(ライフサイクルアセスメント)視点での自動車の二酸化炭素(CO2)削減効果の訴求や、空飛ぶクルマなど、次世代モビリティ分野での需要開拓も視野に入れ、複合成形材料の売り込みを強化する。

 「量産車への拡大を図るにはこれしかない」―。三菱ケミカルで高機能成形材料などを担当する岡田幹士常務執行役員が狙うのは、炭素繊維複合成形材料(CFRP)におけるリサイクルビジネスモデルの確立だ。現在、トヨタ自動車「プリウスPHV」「GRヤリス」、アウディ「RS5クーペ」など、量産モデルにCFRP製部品を供給しており、特にPCM、SMCに力を注ぐ。

 脱炭素社会を見据えて、CO2排出量削減が自動車部品の採用基準に加わる可能性もあることから、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の推進役として炭素繊維複合材料をアピールしていく。

 岡田常務執行役員は「今後、高級車だけでなく量産車にも普及させていかなければならない」と意気込む背景にあるのが、自動車の電動化に伴う軽量化ニーズの高まりだ。鉄と比較して軽量で高強度のCFRPには追い風だが、コストの高さが採用拡大のハードルとなっている。 

 こうした状況を打破し、量産車への採用拡大に向けた突破口と位置付けるのがカーボンリサイクルだ。同社は国内子会社の新菱でカーボンリサイクル事業を展開するのに加え、2020年には独のCKFバレーステイドリサイクリングとカーボネクストを買収、リサイクルビジネスの構築に向けた基盤づくりを進めてきた。

 サーキュラーエコノミーの流れが世界的に高まることも視野に、CFRPのリサイクルビジネスモデルの構築を本格化する。

 新たなビジネスモデルの構築に向けて、国内で大きな役割を果たす新菱は現在、CFRPの端材やプリプレグなど中間製品の端材を原料とするカーボンリサイクルに乗り出している。

 新菱が生産するのはリサイクル炭素繊維(RCF)を活用した樹脂コンパウンドペレット。「軽量で炭素繊維の強度を担保した形で提供している」(同社)のが特徴だ。原料を熱分解してマトリックス樹脂を除去し、取り出した炭素繊維をカッティングした上で、ポリプロピレンやポリカーボネートと混錬して生産する。

 「これまで価格的に炭素繊維では対応できなかった領域」で、この樹脂コンパウンドペレットで商機を見出そうとしている。CFRPを使って強度を持たせる構造部材ではなく、内装部品やユニットの構成部品などをターゲットに据える。「炭素繊維のバージン材はもともとが高い。それだけにリサイクルでもコストメリットが出せる」という。

 リサイクルとともに炭素繊維の付加価値として訴求するのが、LCAにおけるCO2削減効果だ。三菱ケミカルの岡田常務執行役員は「炭素繊維のリサイクルはバージン素材よりもCO2発生量が6分の1に抑えられる」と話す。CFRPは製造時のCO2排出量が鉄より多い。同社は使用段階、廃棄段階の発生量を加味したLCA全体では、鉄よりも削減効果が大きくなることを訴求する。

 課題もある。使用環境の厳しい自動車部材として耐えられる性質を確保する品質保証はその一つ。新菱は「リサイクル材としての品質保証というより、バージン材並みの品質をどう担保するかが重要」と指摘する。

 自動車メーカーの中にはリサイクル材の使用を部品採用の一つの基準にする動きもある。だからこそ「現在の部材並みのコストパフォーマンスと品質が要求される。加えてLCAのメリットをクリアしなければ自動車マーケットには入れない」(新菱)と見て、今後もCFRPの付加価値向上に取り組んでいく。

 (次回は13日・部品面に掲載します)