ブランドロゴも約20年ぶりに刷新し、 新しい日産を印象付ける      

 日産自動車は、約10年ぶりとなる電気自動車(EV)の新型車「アリア」を15日に世界初公開した。オンライン発表会では、内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)が、日産の新しい顔となるモデルとして新型車を開発したことをアピール。新型車発表会に日産のトップが姿を現したのは久しぶりで、新型車への力の入れようを示した。日産ブランド再興の期待を背負うアリアだが、市場投入は2021年央からと1年先だ。異例にも見える先行発表に踏み切った理由とは。

 日産はここ数年、長くて暗いトンネルが続いた。18年に完成検査の不正が発覚し、同年11月には会長だったカルロス・ゴーン氏が有価証券報告書の虚偽記載で逮捕され、会社資産を私的に流用していたことも発覚して社内外に激震が走った。その後、アライアンスパートナーであるルノーと経営統合を巡って関係が冷え込み、ゴーン氏追放を主導した前社長兼CEOの西川廣人氏の不正な報酬受け取りも発覚した。日産ブランドは低下し、販売が低迷、業績も悪化するという悪循環に陥った。

 この状況を打破して日産を再び成長軌道に乗せるために策定したのが5月に発表した事業構造改革計画だ。計画では、過去、実力以上に新興国市場などに戦線を拡大したことで経営資源が不足し、新型車を投入できなくなり、販売不振を招いたとの反省から「選択と集中」を徹底。注力市場に継続的に新型車を投入して販売てこ入れを図ることを明確に打ち出した。今後、1年半の間に新型車12モデルを投入する計画だ。

 その中でもアリアは「最高の技術を搭載した自信作で、日産が描く未来そのもの」(内田社長)と位置付け、同車には「技術の日産」を象徴する数多くの先進技術を搭載する。「競争力のあるコストで選んだ」(中畔邦雄執行役副社長)とするリチウムイオン電池は中国のCATLから調達し、90㌔㍗時の電池搭載の二輪駆動の航続距離は最大610㌔㍍を達成。停止状態から時速100㌔㍍に達するまでの時間は5・1秒と、スポーツモデル「フェアレディZに匹敵する」(アシュワニ・グプタCOO)レベルの加速性能を発揮する。

 車載ソフトウエアを無線通信でアップデートする「OTA」(オーバー・ジ・エア)にも対応。準天頂衛星「みちびき」にも対応して自車位置を高精度に測位する自動運転レベル2の「プロパイロット2・0」、コネクテッド技術ではアマゾンの「アレクサ」を搭載するなど、最新技術を数多く搭載する。

 ただ、アリアの市場投入は先だ。21年央に日本市場に投入、中国や北米市場には21年末になる見通し。発売1年以上前という異例な形で新型車を発表した理由は、昨年末に一新した経営陣が事業構造改革計画を策定したタイミングで、過去の負の遺産を一掃し、日産ブランド再興に向けた第一歩を内外に示すためだ。アリアを機に日産のブランドロゴも約20年ぶりに刷新し、新しい日産を印象付ける戦略だ。

 アリアを先行発表したもう一つの理由としてEV販売世界トップのテスラの存在がある。自動車各社が新型コロナウイルスの影響で苦戦する中、テスラは量販モデル「モデル3」の販売を順調に伸ばしている。そのテスラはアリアのライバルとなるSUV「モデルY」の販売を今春、北米で開始した。21年初めには世界最大のEV市場である中国でモデルYの現地生産がスタートする。市場を食い荒らされることに焦りの色を隠せない日産は、アリアの性能や機能を含めて先行公開に踏み切った。

 一方、最新装備を盛り込んだアリアだが、市場投入までに時間を要することから技術が陳腐化するリスクを抱える。特に自動運転関連技術や電池技術などは、技術革新のペースが速い。ブランド立て直しに向けて打ち出した先行発表戦略が吉と出るか、凶と出るか、来年のアリアの販売動向が注目される。

編集委員 野元政宏