CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に代表される先進技術の進展で、自動車技術は大きな変革を遂げようとしている。異業種の参入や協業領域の拡大でプレーヤーが増える中、開発の要はハードウエアからソフトウエアに移りつつある。自動車技術会(自技会)の新会長に5月に就任したトヨタ自動車の寺師茂樹取締役執行役員に展望を聞いた。(村田 浩子)

 ―CASEにより自動車メーカーやサプライヤーを取り巻く環境が変わりつつある。その中で重要になってくることは

 「過去を振り返ると、時代ごとに課題があり、その課題に対応するために技術を磨いてきた。CASEに関しても、個々の技術は以前から取り組んできた領域であり、それをステップアップさせるタイミングに今はある。この過程で重要なのはソフトウエアで、従来のハードウエア中心の開発から移行しつつある」

 ―ソフトが中心になることで自動車開発はどう変化するのか

 「私の世代が入社した頃は、ハードをいかに磨くかが最も重要で、ソフトはハードの制御が主な役割だった。しかし、ECU(電子制御ユニット)などの搭載台数が増えて電子化が進んだことで、ソフトを入り口にした車づくりが進みつつある。複数の技術をインテグレート(統合)する過程にソフトが加わることで、アウトプットはより大きくなる。専門分野を磨くのと同時に、カバーする領域を広げていくことも重要だ」

 ―領域が広がることで異業種を含む他社との協業もより重要になってくる

 「完成車メーカーがあり、サプライヤーが続く従来のピラミッド型の形態は変化するだろう。ソフトウエアに加え、半導体やセンサー類など従来の自動車の枠組みに収まらない技術の登場で、異業種を含め特定の技術に特化した企業がより広範囲の市場をカバーすることになるかもしれない。これまでのように車づくりの中心に自動車メーカーがいるとは限らない。異業種も含めた競争はもう始まっている」

 ―自技会は自動運転の国際標準化活動にも力を入れている。改めてその意義は

 「交通事故を減らす。ロボタクシーで移動を楽にする。自動運転を実現する目的は企業によって異なるが、基準やルールが国内外で統一されていることが大前提だ。どこまでの技術を実現すれば自動運転と称して良いのか、ゴールを決めて共有する必要がある。我々だけでできるものではないため、仲間を募って取り組む」

 ―新型コロナウイルス感染防止のため「人とくるまのテクノロジー展」や「学生フォーミュラ」といったイベントを中止した。例年とは事業環境が異なる中でどう活動していくのか

 「人が集まれない環境下でも、産官学での連携やオープンイノベーションといった一つひとつの取り組みは、これまで以上に磨きをかけなくてはならない。その中でデジタルの活用は間違いなく必要になる。コロナ禍による在宅勤務の推奨で新しい発見があった一方で、移動制限による弊害も浮き彫りになった。この機会にデジタルとリアルの融合を考える必要がある」

 ―デジタルやソフトウエアの活用が進めばサイバーセキュリティーの重要性がより高まる

 「デジタル世界の構築とリスクを背負うことは表裏一体だ。ハードとは異なり、ソフトは動いて初めて不具合に気がつくことも多い。過去を振り返っても必勝法は無く、目に見えないリスクの存在を前提にシステムを組む必要がある」

 ―領域が広がったことで人材育成の必要性が増した

 「若い世代の育成はもちろんだが、どの年齢になっても常に知的好奇心を持ち続けられる人材を育てることも大切だ。特定の技術に特化するだけでなく、将来、多様な領域で活躍できるベースを身に着けてほしい」

 〈プロフィル〉てらし・しげき 1980年神戸大学大学院修士課程工学研究科専攻修了、同年4月トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。2005年第1トヨタセンターZSエグゼクティブチーフエンジニア、08年常務役員、11年トヨタモーターエンジニアリングアンドマニュファクチャリングノースアメリカ取締役社長兼COO、13年トヨタ自動車専務取締役、15年取締役副社長、20年に現職。1955年2月生まれ、65歳。