トヨタ自動車が戦略的な値付けで電気自動車(EV)の販売を伸ばしている。「bZ4X」は2025年10月の大幅改良で同クラスのハイブリッド車(HV)並みの価格とし、手厚い補助金を利用することでHVよりも割安に購入できるようになった。改良前の販売台数は月間2桁台で推移していたが、足元では約2000台ペースを維持しており、価格改定が起死回生の一手となった。全面改良を機にEVを追加したレクサス「ES」についても価格をHVと同額とし、補助金によってEVは買い得感が増している。トヨタは技術の粋を集めた次世代EVの開発中止を決めた一方、地道に現行車の価格競争力を高めてEV販売台数を着実に伸ばしていく。
■スロースタートから異例の大幅改良
bZ4Xは22年5月に販売を開始したが、直後にリコール(回収・無償修理)を届け出て、販売再開に5カ月を要した。EVで先行する日産自動車やテスラに追い付くべく満を持して投入したトヨタ初のEV専用車は、スタートダッシュでつまずいた格好だ。
発売当初はサブスクリプション(定額利用)サービス「KINTO(キント)」のみの扱いで台数が伸びなかった。EVが普及する海外市場でもbZ4Xに対する評価は厳しかった。MS統括部の井戸大介主査は「厳しい指摘に対し、通常はマイナーチェンジのタイミングで直すところを7週間で改善することを決めた」と明かす。ただ、発売後に細かい改良を重ねたにも関わらず、国内販売は低空飛行が続いた。
反転攻勢を目指したbZ4Xの改良モデルは、全面改良レベルの性能向上を実現した。グループが総力を挙げてeアクスルやインバーターなど個々の部品を改良し、性能向上とコスト低減を両立。エントリーグレードの価格は480万円(消費税込み)とし、航続距離を維持しながら旧モデルより70万円引き下げた。
もっとも、bZ4Xの価格が下がった背景には、拡販に向けた戦略的な値付けもある。トヨタは27年3月期の世界EV販売台数を前年度比2.5倍の約60万台とする計画だが、EVの台当たり利益の低さなどを理由とした「台数・構成」の変化が、営業利益を2050億円押し下げる見通しだ。
■補助金効果はHVブームをほうふつ
1月に見直された「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」(CEV補助金)がbZ4Xの販売をさらに押し上げている。補助額は従来の90万円から40万円増え130万円となり、同クラスのSUV「RAV4」(450万円~)よりも100万円安く購入できるようになった。各自治体の補助金を加えると、EVの価格競争力はHVをさらに圧倒する。
商品力の向上と補助金によって需要が一気に拡大する現状は、エコカー補助金によってHVが爆発的に売れた09年ごろと重なる。リーマンショック後の経済対策として始まった当時の補助金とほぼ同時に発売された3代目「プリウス」は戦略的な価格でヒットし、20年の販売台数は30万台を超えた。HVブームはホンダ「インサイト」というライバル車の存在も大きく、競争環境が市場拡大につながった。
■中東危機の原油高で再び需要伸長
5月の国内EV販売(乗用車)台数は、前年同月比2.5倍となり、販売比率は3.5%と過去最高を記録した。補助金効果や新型車効果でホンダや日産自動車もEVの販売を伸ばしている。トヨタは2月にbZ4Xの荷室容量を拡大した派生モデル「ツーリング」を追加した。26年度中には新型ESに加え、他にも新型EVの国内投入を計画しており、さらに販売攻勢を強める。
各国の手厚い補助による熱狂的な「EVブーム」は去ったが、中東情勢の緊迫化による燃料価格上昇を受け、世界市場では再びEV需要が伸び始めている。
国内のEV販売比率は普及が先行する中国や欧州には遠く及ばないが、車両価格の引き下げと手厚い補助金によって、国内でもEVの経済合理性が高まっていることは事実だ。
中嶋裕樹副社長は「EVは二酸化炭素を削減する有力な手段の一つであり、おそらくマーケットはこれからも広がっていく」と話す。地道な改善で商品力を高めた現行EV群で着実に台数を積み上げつつ、次世代EVの導入時期を慎重に見極める方針だ。
(編集委員・福井 友則)




















