あなたが商談した際の試乗率はどのくらいですか?
とある新車ディーラーの若手セールスパーソンが自分の試乗率の低さに悩んでいました。商品知識は問題ない彼がなぜ、試乗率が低いのだろうか。
原因は彼の商談の進め方にありました。身につけた商品知識という情報を一方的にお客さまへ提供することで一生懸命であり、お客さまの些細な感情の変化に気付くことができていなかったのです。クルマの説明はできていますが、そこから体感へつなげる仕掛けが無いのです。単に情報を提供するだけではお客さまの購入意欲は高まっていきません。
ある日、若手セールスパーソンは試乗率の高い先輩にお願いして、商談に同席させてもらうことになりました。先輩は商談している際、何度もお客さまの表情を確認しています。ふとした時、先輩は商品説明を止め、お客さまへ「私の言葉だけではイメージが湧きにくいですよね。運転してみると、よりイメージしやすくなりますよ」と自然な流れで試乗へ誘導していました。お客さまは意欲的な表情で案内された試乗車へ向かっていきました。あまりの自然な流れに、若手の彼は衝撃を受けました。
先輩の商談からヒントを受けた彼は、次の商談で実践してみました。来店されたお客さまは、子どもが生まれスライドドアタイプのクルマを探しています。普段通りカタログを使用して商品説明を行っていたところ、お客さまから「このクルマは今のクルマと比べて後部座席はどのくらい広いの?」と質問を受けました。いつもの彼なら、カタログに記載されている数値を伝えて終わりでしたが、すかさず「実際に今のおクルマと比べてどのくらい変わるか見てみませんか?そのまま試乗していただければ、さらに感覚が掴めると思います」と今までのアプローチとは少し変えてみました。するとお客さまは「せっかくだから試乗してみようかな」と彼の提案に乗ってくれました。試乗後は「やっぱり乗ってみると違いが分かるね」と、試乗を促す一言の大切さを知ることになりました。
商品説明は、単に伝えることだけではなく、お客さまの心を動かすことです。どんなに上手に説明しても、お客さまが体感したいと思わなければ商談が前に進むことはありません。試乗につなげるポイントは、商品説明の中に体感の入口をつくることです。お客さまの表情をよく観察して、興味・関心を示した瞬間を見極めて誘導することで、試乗への場面変えができます。
商品説明に集中してしまうと、お客さまの表情や心理の変化に気付けなくなってしまいます。大切なことは、相手の興味・関心が変化した瞬間を見落とさず、変化した瞬間に行動を促す一言を付け加えることで、試乗率が上がっていきます。次の商談から、お客さまをよく観察することを意識してみて下さい。
文:株式会社プログレス 江原忠宏
〈プロフィル〉えはら・ただひろ 2006年東海大学電子情報学部卒、同年国産ディーラー入社。営業職、店長を務めるも、17年5月輸入車ディーラーに転職。入社2年目に係長昇進、3年連続で販売優秀者表彰。その後人材育成にやりがいを見出し、20年プログレス入社。「人材を『人財』に」をテーマに活動中。静岡県出身、41歳。



















