交通規制に気づかず突っ込んでくるクルマを減らそうと、西日本高速道路(ネクスコ西日本)グループが事故防止システムを開発した。近年は、車線逸脱防止機能などが作動したまま進路を変えずに走り続け、工事車線上の機材や車両に接触するケースもあるという。道路の本格的な老朽更新時代を前に作業員の安全を守ろうと、同社は他の高速道路会社にも提供を始めつつ、追加で可搬型の開発も進めている。
開発したシステムは3段階のプロセスで事故を防ぐ。第1段階は接近車両の検知だ。活躍するのは人工知能(AI)搭載カメラ。道路状況や気象条件などに応じ、規制エリアの手前の一定距離に差し掛かった時点で車線を変えようとしない車両を高い精度で検出する。
第2段階は、検出した車両の運転手に対する警告だ。「危険」「追突注意」など、事前登録した表示を点滅させると同時に、遮音性に優れた車内にも届きやすい600ヘルツと、人間が聞き取りやすい周波数帯とされる3キロヘルツ帯の音を組み合わせたサイレン音を導入し、確実に運転手へ警告できるようにした。
そして第3段階が、作業者への避難警告だ。車線変更を促す矢印板やラバーコーンに組み込んだ発信器が、車両と衝突した瞬間に警告を出して避難を促す。手旗で合図を送る作業者からも、所持する発信器を操作して警告を出せるようにしてある。
これらの機器は、工事関係車両に載せる中継器を介して連携しており、3つのプロセスがほぼ同時に作動する仕組みにしてある。ネクスコ西日本グループは、ネクスコ各社をはじめとする道路会社などに約30台分を提供。一部はすでに規制現場で使われ始めた。現行の車載型に加え、橋梁改修や道路の逆走対策など、長期間の規制や定点監視にも対応できる可搬型の開発も進めている。
ネクスコ西日本グループがこのシステムを開発した背景には、交通規制を伴う工事の増加が見込まれる中、規制エリアへの誤進入事故が急増していることがある。東日本、中日本を含むネクスコ3社が管理する高速道路における「規制内進入事故」の発生件数は2020年度に704件だったが、24年度は1966件と2.8倍になった。
道路の老朽化が進む中、ネクスコ西日本は、国内初の高速自動車国道である「名神高速道路」をはじめ、供用開始から半世紀を超える道路を多く抱える。改修工事の増加とともに、交通規制エリアの事故抑止は、安全対策の重点テーマだ。
誤進入の理由は「居眠り」「わき見」などの漫然運転が多いが、西日本高速道路エンジニアリング関西の池上信二・営業部専門役は「アダプティブクルーズコントロール(ACC)など、自動運転支援機能の普及も影響している可能性がある」と指摘する。現在普及している先進運転支援システム(ADAS)は、緩やかな車線規制などに対応していないからだ。もっとも技術が進んでも機械である以上、100%の安全はない。悲惨な交通事故を1件でも減らすためにも、技術開発とともに運転者の過信や慢心対策が引き続き、求められるところだ。
(清水 直樹)



















