トヨタ自動車が、世界耐久選手権(WEC)などのモータースポーツ活動を手掛けるTGR―E(トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ)の組織改革を進めている。中嶋裕樹副社長が4月1日にTGR―E会長に就任して以降、量産車開発のエース技術者を加えたり、コミュニケーションの強化を通じた風土改善に乗り出したりしている。中嶋会長は9月26~28日に行われた世界耐久選手権(WEC)富士大会で「旧態依然とした体制、体質がある。結果はどうなるか分からないが、新しい風でつぶすしかない」と語った。
今シーズンのWECは苦戦が続いている。富士大会では、7号車が一時は暫定首位に立つ健闘を見せたものの、残念ながら結果は8位。8号車は予選から下位に沈んだ
「大きなハードウエアの変更もなしに今年を戦おうとしていること自体が、もう駄目だと証明された。原因は空力とタイヤだ。もう徹底的にやる必要がある。敵はやってきてたのだから。今は時間稼ぎしている状況だ。中嶋一貴TGR―E副会長も言っていたが、新しいものを入れていく。とにかくやるしかない」
WECではチーム体制を変えた。トヨタで量産車を開発していた山本雅哉氏と高橋毅氏を招聘(しょうへい)。山本氏はテクニカルコーディネーターとして技術補佐などを担い、高橋氏はエンジンスペシャリストとして性能向上や水素を含めた新エンジンの技術開発を進める
「トヨタの抱えている縮図と同じ問題がTGR―Eにもある。コミュニケーションの問題や現場との距離感など、トヨタで起こっている問題が展開されたような形になっている。他のレースでは〝モリゾウ(豊田章男会長)〟が中心になって変えようとしており、変わりつつある手応えを感じている。一方(TGR―Eには)旧態然とした体制、体質がある。変えるためには旧態の人がいてはいけないので、新しくエース級を投入する。無理を言ったがエースを投入させてもらい、結果はどうなるか分からないが、新しい風で(問題を)つぶすしかない」
かつて豊田章男会長は技術部のことを〝白い巨塔〟と呼んだ。トヨタでは技術開発のトップを務める中嶋副社長。TGR―E会長として何を壊すのか
「壊してみることで、その中にある原石が見えてくることもある。今、私からすると、ちょっとフワッとしている感じがする。要は、当たり障りのない会話が正直多い。別のレース現場に行くと、同じチームの技術者同士が血みどろの戦いをしているようなところが薄い気がしなくもない。一番、変わらなきゃいけない現場そのものだ。今日(WEC富士大会)も『自分たちのベストを尽くすんだ』と笑顔を大事にしてやればいいが、その笑顔の中にも大事なのは〝この技術は俺に任せとけ〟という燃えたぎる雄姿、そういう連合体であってほしい」
「勝てない理由は組織にも技術もある。だったらそれを壊してみる。私がここにいるのはそういうことじゃないのかなと思う。人に問題があるというよりは、コミュニケーションの仕方や『勝ちにこだわる』という言葉の意味、情熱の伝え方などだ。スタッフ一人ひとりのポテンシャルは高い」
水素エンジンとハイブリッドシステムを組み合わせたテストカー「GR LH2レーシング・コンセプト」を今年のル・マン24時間レースで公開した。今年末にも実走テストを始める
「『いつまでも遊んでる場合じゃない。本気を出せ』と言っている。マシンを展示しておいて『いつ走るのか』と…。もっと不退転の覚悟で『もう俺たちには後がない』という危機感を、ここで醸成しておかないといけない。言い方は悪いが、ちょっと甘さがあったと素直に認めざるを得ない。私はそういう役割で、この(会長という)立場にさせていただいたと解釈している」
WECが2012年に復活して以来、トヨタは一度も撤退することなくレーシングハイブリッドマシンで参戦を続けている。ハイブリッド技術の実証と進化の場と位置付け、そこで得た知見を市販車開発にも生かす考えは不変だが…
「そのステージでない。まず勝つことが重要だ。勝たなければ何が展開できるか分からないのが正直なところだ。そこまでわれわれは追い込まれている。勝ちにこだわるために『きれいごとを言ってる場合じゃない』と議論している。データを取っているので、いつでも展開はできると思う。ただ、まずは勝つことだ。(WECチームには)量産を知っているメンバーが入り込む。どこを掘り込めばレースに勝てるのか。新たな発見が出ることに期待している。やはり勝つという結果とともに、それ(市販車への技術展開)が証明できると思っている。まずは来年に向けてしっかり勝ちにこだわっていく」
(編集委員・水町 友洋)



















