自動車保険販売の来春からのルール見直しに備え、すでに動き出しているディーラーもある。顧客との関係を強化する重要なツールとして保険を位置付けている社も多いからだ。ただ、「過剰な本業支援」の見直しから損害保険会社とディーラーの役割分担も大きく変わる。コンプライアンス(法令順守)への姿勢も、より問われてくる。新たな保険販売態勢を短期間に確立するためには、ディーラーと損保側との丁寧な話し合いが鍵となる。
北海道のあるディーラーは、昨年10月に保険の継続や年次点検を専門に行う保険サポートグループを発足させ、今年7月に保険業務を集約して保険部を新設した。「変化に柔軟な対応ができるようにするため」という。
関東のあるディーラーは、7月にコンプライアンス部を新設した。保険募集人の知識の向上や各種ガイドラインに沿った保険販売の徹底などを強化するために「主管損保と各拠点責任者との定例会を開催している」(関西のディーラー)動きもある。
保険業務に携わる社員に対する教育強化の必要性は、多くのディーラーが指摘している。ただ、今後高度な保険知識や法令対応強化が求められることを考えると、「営業スタッフ全員に募集人資格を取得させることをやめる選択肢もある」との考えを示す経営トップもいる。営業スタッフの負担軽減だけではなく、コンプライアンスリスクを低減したいという考えも大きいからだ。
改正保険業法では、特に規模が大きい「特定大規模乗合損害保険代理店」(基準は現在策定中)に対し、「法令等順守責任者」と「統括責任者」の設置などの上乗せ義務を課す。営業所(店舗)ごとに置くことが求められる法令等順守責任者について、別のある代表者は「店長を選任することが考えられるが、彼らにこれ以上の業務と責任を負わせることは難しい」と打ち明ける。
比較推奨販売の制度見直しについても、「募集人の教育に関して損保からのサポートが十分なのか不安がある」(九州のディーラー)との声も挙がっている。
制度改正で、これまで損保で〝代行〟していた代理店が本来担うべき業務などを〝戻す〟という考え方もある。例えば、顧客から頼まれた「商品の見積もり」や「更新手続き」などだ。関東のあるディーラー幹部は「法改正などで決まったことはしっかりと対応するが、現場に求められる業務と負担、責任は格段に増えるだろう」と指摘する。
準備期間は来春までと短く、損保業界・各社の伴走支援が欠かせない。取引先損保の見直しを検討するとしたディーラーの選別判断基準は各社で異なると思われるが、損保側の今後の取り組み姿勢を注視していることは間違いない。
一連の自動車保険をめぐる不祥事で、金融庁の有識者会議では「ディーラーの本業の車両販売で得られる利益が減少しているため」に、損保側に無理が生じるケースがあるとの指摘があった。これについては「(ディーラーの)現場の実情を分かっていない」と憤る関係者は少なくない。
ディーラーが保険部門の強化に努めてきたのは収益増だけが狙いではない。顧客と関係を築き、顧客満足(CS)を高めて車の代替につなげる―こうしたサイクルを回す〝エンジン〟の一つとして保険を位置付けている。
関東のあるディーラーの担当者は以前の取材で、「収益は結果論で保険は顧客との関係を強化する重要なツール。代替という得点を得るために塁を進める『送りバント』の存在だ」と例えた。「保険の価格に高い、安いはない。新規付保率は新規客の支持率、継続率は既存客の信頼度」と、ディーラーの保険部門における重要指標であると指摘した。
一部の企業への偏向した社員出向や過剰な本業支援、顧客情報の漏えい、企業向け保険の価格調整などを挙げて「損保と協会には不信しか存在しない」(中国地方のディーラー)と、厳しく非難する意見もあった。
(編集委員・平野 淳)



















