国内タイヤメーカーで、モータースポーツの入門カテゴリーであるカート用のタイヤの供給を終了する動きが広がっている。これまで、3社が提供してきたが、横浜ゴムとブリヂストンが年末での撤退を決めた。競技人口の減少を受け、カートタイヤ事業の採算が悪化しているためだ。残る住友ゴム工業は、来年以降も継続する意向を示す。しかし、競技用カートだけではなく、一般ユーザーが気軽にモビリティの楽しさを体感できるレンタルカートも含め、タイヤの選択肢が少なくなるのは事実。カート業界への影響は少なくなく、現場からは悲鳴が上がっている。
横浜ゴムは9月、カート用タイヤの供給を12月末で終了することを公表した。また、ブリヂストンは2020年9月に、22年いっぱいでのカートタイヤ事業から撤退する方針を打ち出していた。両社はともに、中長期の経営計画に基づき事業の選択と集中を進めているさなか。限りがある経営資源の有効な配分を検討する上で、両社は「慎重に検討を行った結果」として決断した。
国内レーシングカートの最高峰「全日本カート選手権」ではこれまで、国内メーカーでは横浜ゴムとブリヂストン、住友ゴムの3社がタイヤを供給してきた。このうち、最高峰の「OK部門」を除く4クラスは、日本自動車連盟(JAF、坂口正芳会長)の承認の下、3社が部門ごとにそれぞれワンメイク供給していた。この体制が来年から大きく変わり、競技に出場する選手側の負担が増す可能性がある。
ただ、タイヤメーカーにとってカート用タイヤは、売り上げも限られるニッチな事業の一つだ。各社は同タイヤの出荷本数を明らかにしていないが、安定した利益を得るのは難しい実態が続いていたとみられる。JAFが公表している競技用の「カートライセンス発給数」は1995年の9703件をピークに右肩下がりとなっており、2020年は3636件まで落ち込んだ。競技人口が減れば、出走数にも波及する。当然、タイヤの需要も減少していると考えられ、この市場で3社が生き残るには、難しい環境にあったと考えられる。
また、小径のカート用タイヤは見た目だけではなく、求められる性能も他のタイヤと一線を画す特殊な製品の一つだ。そのため、専門的な開発が求められるものの、このノウハウを乗用車用タイヤなどに展開するといった手法がとりにくい。ここ数年、中国などの新興メーカーとのシェア争いが激化するなど事業環境も厳しくなっている国内タイヤ各社。利益率が低く、他のカテゴリーとのシナジーを生み出しにくいカート用タイヤは、選択と集中の対象に入りやすかったとみられる。
一方、撤退する2社の動きを受けて、カート業界からは悲痛な声が上がる。日本カート選手権オーガナイザー協会(JKOA)の饗庭喜昭代表理事は「われわれとしては死活問題であり、諦めの境地」と苦しい胸の内を明かす。特に、最高峰クラスでシェアの高いブリヂストンの撤退による影響は大きいとみている。各社の収益確保の必要性を理解しつつも、「タイヤメーカーからカート業界へのサポート体制が手薄になるのでは」とも危惧(きぐ)する。
また、饗庭代表理事は競技人口の減少に歯止めをかけるため、「電気自動車(EV)カートとジュニアクラスで盛り上げたい」とも意気込む。今年から全日本カート選手権に「EV部門」を新設。時代の変化に合わせ、持続可能なモータースポーツを実現することで、注目を集める考えだ。
他社が撤退する中で、事業を続ける決断をした住友ゴム。この背景には「日本のレーシングカート競技の黎明期よりカートタイヤを製造しており、引き続きカート業界を支えるべく製造供給を継続する」(広報部)との思いがある。カートは、モータースポーツの裾野を広げる役割を担ってきた。事実、F1世界選手権に参戦している角田裕毅選手も全日本カート選手権からキャリアをスタートした。日本のモータースポ―ツ文化を未来につなげるためには、こうした入門レースの充実が必須。このためにも、カートを足下から支えるタイヤの重要性は今後も高まりそうだ。
(中村 俊甫)




















