〈トップインタビュー2026〉日本精工、市井明俊社長・CEO 次期中計で北米自動車事業に50億円投資

2026年度より次期中期経営計画を1年前倒しでスタートさせる日本精工。自動車事業においてはこれまでも、電動化に対応した新製品や新技術を開発して他社との差別化につなげてきた。ただトランプ関税をはじめ、取り巻く事業環境は大きく変わりつつある。手にした技術をどのように生かして成長を目指すのか。市井明俊社長・CEO(最高経営責任者)に聞いた。

―現中計下での事業環境を振り返って

「当初、コロナ禍が明けたことで順調な市場の回復を期待していたが、さまざまな事情で回復が鈍化している。また、中国勢の電気自動車(EV)メーカーが急速に成長してきたほか、安全保障上の問題によるサプライチェーンへのリスクが鮮明化するなど、事業環境が大きく変化した。自動車メーカーなどでの不正も発覚した中で、今はもがきながら新しいものを再構築する過渡期でもあると思う」

―自社の事業における変化は

「収益向上にむけた従来の事業モデルが変化している。これまでは市場の成長を前提とした中で、生産性を改善し、グローバルでの価格競争力をつけてきた。一定の物量を生産する中でどのようにコストを下げるのか、電動化で需要が変わる中でどうやって新たな商品を開発し、ポートフォリオを変えていくのか。こうした点が新たなテーマになっている」

5月に新たな中計を公表する

電動化に対応した製品などを拡販して収益性を高めていく。例えば、電動油圧ブレーキシステム用ボールねじや、eアクスル用軸受の電食を防ぐ導電バイパスプレートのような、差別化を狙った商品だ。次期中計ではこれらの構成比率を高める。自動車向けの売上高において、5割程度まで引き上げることになるのではないか。またボールねじなどはブレーキ用だけでなく、ほかの用途にも拡大したい。まとまったニーズがあるのは自動車用だが、その技術は産業機械用などにも生かせると考えている」

―グローバルでの投資や拠点再編の計画は

「まず欧州で言えば、英国の生産拠点からの撤退に向けた労働組合との協議を始めている。もともと進めていた欧州の構造改革の一環だ。また中国では成長の段階は終わったとみている。今後は一定の規模を維持するが、成長というよりは守りだ。ただ、中国では電動化領域において、先行して開発が進んでいる側面もある。技術サービス力を高め、現地のスピード感や現地での設計・開発の仕方を引き続き学んでいく。一方、中国では急速な電動化により、従来の内燃機関向けのベアリングなどの生産能力が余っている。こうした能力はインドなどの成長市場に移管していく。われわれにとっての戦略的顧客や市場を明確にしながら、現地で対応できる体制を作っていく」

―インドは競合他社を含め、日本のサプライヤーが注視している

「インドの自動車産業は、基本的に現地調達だ。われわれは以前から現地に進出しており、すでに体制ができている。その上で今後もこのサプライチェーンを広げることが重要になる。ただ、成長市場と言っても台数がいきなり増えるわけではないのではないか。まずはインドで持つわれわれのシェアを維持していくことが最低限と考えている。まだ生産拠点のスペースには余裕もある。設備投資などは受注状況を見ながら進めていくことになるだろう」

―米国市場での戦略は

「米国は比較的好調に推移している。ただ、トランプ関税を含め、サプライチェーンの最適化に取り組む必要がある。次期中計では、中国やインドに加えて、北米にも注力していく。自動車事業では現地拡販を見据えた生産能力強化の一環として、40億~50億円を現地工場に投資する

―25年9月にステアリング事業を再び完全子会社化した。今後の戦略は

「事業の協業先探しを継続する方針で、次期中計でもパートナー探しを前提している。ただ、事業環境が追い風ではない中で、もし相手が見つからない場合でも黒字を達成できるようにしていく」

〈プロフィル〉いちい・あきとし 早稲田大学商学部卒。1986年日本精工入社。2012年インド総支配人、16年経営企画本部長、17年取締役、19年代表執行役専務などを経て、21年4月より現職。東京都出身。1963年5月8日生まれ。62歳。

(後藤 弘毅)

関連記事