資本再編進む自動車サプライヤー 親子上場の解消 円安で外資も意欲 経営資源集中でEVやSDVに対応

自動車関連業界で、資本構成を再編する動きが相次いでいる。上場子会社の完全子会社化や売却で「親子上場」を解消したり、外資やファンドなどの傘下に入ったり、といった動きだ。背景には電動化や車載ソフトウエアの高度化などが進む中で、研究開発や生産体制を再編し迅速な経営判断につなげたい事情がある。

住友電気工業はTOB(株式公開買い付け)で住友理工を完全子会社化する。自動車事業をコアとする住友電工にとって、主力の自動車用防振ゴム領域で国内トップシェアの住友理工とのシナジーをさらに強化するためだ。ハーネス一体型モジュールや、タッチセンサー、電気自動車(EV)用電池関連など事業構成を充実させ、共同開発を図る。

一方で、住友電設についてはシナジーが限定的との判断から、大和ハウス工業への売却を発表した。

また、NECは昨年、車載コネクターなどを手掛ける日本航空電子工業(JAE)の株式の大部分を京セラに譲渡すると発表した。JAEはNECの連結子会社ではなくなり、京セラの影響下に入ることになった。この「資本再構成」も事業戦略が関わっている。

JAEの主力にはコネクターや自動車用インターフェース製品などがあり、車載関連が売上の大きな部分を占める。今後も拡大する重要な事業分野とされている。昨年には、インド市場で自動車など向けの体制を強化するための合弁会社設立を発表した。車載を柱の一つとする京セラはJAEと提携することで、車載関連の世界販売や、製品開発などの協力を進めるとみられる。

商社・IT業界でも動きがある。住友商事は、システム開発大手のSCSKを完全子会社化すると発表した。SCSKは近年、モビリティやスマートシティー関連事業に注力しており、ここでも新たな付加価値を狙う。NTTは近年、NTTドコモやNTTデータグループを完全子会社化。データセンターやITサービスへの経営資源を集中するのが主な狙いだが、同時に、自動運転などのサービスの効率的な展開につなげる。

一方、買収などで他社の傘下に入る動きも昨年相次いだ。

パイオニア(矢原史朗社長、東京都文京区)は、ディプレー大手の台湾イノラックス(群創光電)からスピンオフした、カーユーエックス(シンガポール)の傘下になった。芝浦電子も、台湾の電子部品大手、国巨(ヤゲオ)による買収が決まった。車載を主力にする東京コスモス電機も、シンガポールの投資ファンド、スイスアジア・フィナンシャル・サービシズ(SAFS)などが大株主になった。経営陣が解任され、新経営陣が就任された。

ある外資系サプライヤーの幹部は「自動車業界が変革に見舞われる中、研究開発や生産にも一定の規模が求められ、外部資本の導入や身売りなどを選択肢に考えている中堅・中小サプライヤーは多いはず。実際、仲介会社などからは買収案件候補が舞い込む」と明かす。

イノラックスの洪進揚(ジム・ホン)会長CEO(最高経営責任者)も日刊自動車新聞の取材に「今回の投資の背景には円安もある」と話した。「日本にはニッチトップの企業が多い。事業とシナジーの出る買収を今後も検討したい」とさらなる投資に意欲を示す。

年末には、ホンダによるアステモの子会社化が発表された。主導権を明確にし、意思決定をより早める狙いがある。

背景にはEVやソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)対応で、車両開発と部品・ソフトの一体設計が不可欠となったことがある。完成車メーカーは、サプライヤーを巻き込んだ垂直的な開発体制を重視している。研究開発や人材育成、投資計画を連動させ、競争力強化につなげるとみられる。

一方、日立製作所にとっては、非中核となった自動車部品事業の関与を縮小し、デジタルやエネルギーなどの成長分野に経営資源を集中できる利点がある。自動車関連業界で進む資本再編の象徴的な事例の一つともなった。

大手や中堅・中小の自動車部品メーカーに広がる再編の波。単独で最先端分野に対応し続けることが難しくなる中で、資本力や販路を持つ企業グループや外資・投資ファンドの傘下に入ることで生き残りを図る選択肢は、今年も有力となりそう。

一方、こうした資本再編は必ずしも「救済」や「合理化」だけを意味しない。親会社や新たな株主の戦略次第では、研究開発の重点化や事業の取捨選択が進み、経営基盤が強化される可能性もある。自動車産業が百年に一度の転換期を迎える中、資本構成の見直しは、企業の将来像そのものを左右する重要な経営判断になっている。

(編集委員・山本 晃一)

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