日産自動車の西川廣人氏が9月16日付けで社長兼CEO(最高経営責任者)職を辞任し、同社の指名委員会が中心となって「約10人に絞り込んだ」とする後継選びが本格化する。日産に約43%出資し、アライアンスの主導権を確保したいルノーや、両社の経営統合を求めるルノーの大株主フランス政府の思惑もあって「ポスト西川」選びの行方は混沌としている。
9月9日に取締役会から代表執行役社長CEO職の辞任を要請された西川氏がこれを受け入れ、事実上、トップの座を解任された。企業のトップが取締役会の緊急動議で解任されるケースでは、これを主導した役員が後継者に就くケースが多い。日産の場合、社外取締役が中心となって西川氏の解任に動いたことから、後継者が不在になるという事態に陥った。当面は山内康裕代表執行役COO(最高執行責任者)がCEO職を代行するが、同社の指名委員会が中心となって10月末までに正式な後任を選ぶことになる。
日産の6月の定時株主総会で指名委員会等設置会社への移行を決議されたことを受けて、西川氏は世代交代に向けて後継選びを加速するよう指名委員会に要請した。これを受けて指名委員会は100人程度の候補者の中から、約10人に絞り込んでいた。西川氏の後継となる日産のトップは、この10人の中から選ばれる見通しだ。具体的な候補者は明らかになっていないが、指名委員会の豊田正和委員長によると日産社内だけでなく、社外、外国人、女性、ルノー出身者と多彩だ。
【日産社内からの昇格】
社外取締役で、指名委員会の委員長を務める豊田正和社外取締役は記者会見で、CEO職を代行する山内氏が正式なCEOに就任する可能性について否定はしなかったものの、「白紙」と述べた。山内氏は西川氏と同じく購買部門が長く、サプライヤーからの信頼も厚い。ただ、年齢が63歳と、西川氏の2歳年下で「若い世代にバトンタッチしたい」という面から見ても、山内氏がリストの10人に入っているとは思えない。
日産社内からの昇格が簡単に決まらないのは幹部の人材不足がある。カルロス・ゴーン元会長の独裁的な経営手法についていけず、実力幹部が続々と日産と袂をわかってきた。代表例が現在アストン・マーチンのCEOとなっているアンディ・パーマー氏だ。日産の元副社長でゴーン後継者の有力候補の1人だったが、あっけなく他社のトップに移籍した。ルノーの元COOでゴーン元会長に次ぐナンバー2だったカルロス・タバレス氏も現在は、グループPSAのCEOで、同社の成長を主導している。
辞任した西川氏は2013年から5年間にわたって日産のナンバー2だった。西川氏の前の志賀俊之氏は2005年から8年間、ナンバー2の座にあった。ゴーン元会長がトップで、日本人の同世代2人がナンバー2という体制が長年続き、次世代の経営を任せられる幹部の育成は事実上、手付かずだった。
さらに、社内からトップ昇格に大きなハードルとなりそうなのが、ルノー側が納得するかだ。日産の役員構成は、社外取締役6人を除けば、ルノー側がジャンドミニク・スナール会長、ティエリー・ボロレCEOの2人、西川氏は社長兼CEOの辞任後も取締役に残るため、日産側は西川氏と山内氏の2人という構成になっている。仮に日産社内から社長兼CEOを抜擢する場合、日産側の取締役数がルノーを上回ることになり、取締役会のバランスが崩れることをルノー側が嫌う可能性がある。
【プロ経営者の就任】
指名委員会の豊田委員長は、日産社外にも候補者がいると指摘したが、アライアンスの外から、いわゆる「プロ経営者」のような人材を日産のトップに据えるのは難しいとの見方が強い。
日産は主力市場である米国の販売が低迷していることなどから2019年4-6月期連結業績で、営業利益が前年同期比99%減の16億円と、業績が急激に悪化している。しかも、業績不振を受けて、グローバルで全従業員の1割に当たる1万2500人以上を削減、生産能力も大幅に削減するなど、リストラを加速している。こうした状況下、短期間に業績回復をリードできる経営者を探すのは難しい。社外からトップを招いた場合、従業員のモチベーションが下がるリスクも高い。
また、自動車業界は電動化や自動運転などによって大きな変革期を迎えている。グーグルなどの異業種も参入、競争環境が激変する中、強いリーダーシップで一連の問題で傷付いた日産をけん引するのは容易ではなく、社外の人材ではなおさら難しいと見られる。
さらに、ゴーン元会長の不正事件は、ルノーとの経営統合を進めようとしたゴーン元会長を追放するための西川氏らによるクーデターとの見る向きもあり、社外からのプロ経営者でも「伏魔殿のような日産」の経営に携わることには二の足を踏むとの見方もある。
【ルノー出身者の招へい】
ルノーは大株主であるフランス政府の意向もあって、日産との経営統合を求めている。このため、ルノーやフランス政府の意向を反映しやすいルノー出身者を日産のトップに据えることを求めると予想される。
日産とルノーの協定書である「改定アライアンス基本合意書」(RAMA)では、ルノーは日産のCEOまたはCOOを派遣できる取り決めになっている。ゴーン元会長の不正が発覚し、ガバナンスの立て直しを優先したことから、ルノーは日産のCOO以上を派遣しない代わりに、スナール会長が日産の取締役副議長に就くことで折り合った。日産が新しい経営体制に移行することから、ルノー側がRAMAの規定を再び持ち出し、COO以上のポストを要求する可能性がある。
スナール会長は以前、日産が、ガバナンス改革として指名委員会等設置会社へ移行する議案について、ルノーの意向が反映されていないとして、株主総会で議案の投票を棄権することを表明した。その後、ルノーのボロレCEOが日産の監査委員会の委員に就くことで妥協した。こうした経緯があるだけに、日産の次期トップ選びでもスナール会長が強硬な態度に打って出る可能性は否定できない。スナール会長は指名委員会の委員でもある。日産社内の昇格でも、社外からの招へいでも、新しいトップの選任には、筆頭株主であるルノーの賛成が必要不可欠だ。
ルノー出身者の選任は、独立性を脅かされるリスクが高まることから、日産側が反発すると見られる。不正が相次いで発覚したゴーン元会長はルノーが派遣したこともあって、ルノー出身者が日産のトップに就くことに対する社内の抵抗は強い。
「誰が引き受けても問題が残る」と見られる日産のトップ選び。指名委員会が1カ月半の検討で、どんな結論を出すのか。関係者はその動向に注視している。






















