伊藤忠商事など3社連合による買収で、5月1日付で「新会社」と「旧会社」に分かれて再生を図るビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)について、兼重宏行前社長ら創業家が「完全引退」することが分かった。創業家は旧会社に最大100億円を提供するが、株式は持たない。旧会社には再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(佐藤雅典社長、東京都千代田区)が中心となって出資する体制になる。

 新会社はビッグモーターの主要事業を引き継ぐ。伊藤忠商事は創業家が新会社に一切関与させない方針を条件にしてきた。新会社は最終的に伊藤忠商事、伊藤忠エネクス、ジェイ・ウィル・パートナーズの3社連合が特別目的会社(SPC)を通じて買収する見通しだ。

 一方、旧会社は現在のビッグモーターに当たる。株式の100%を宏行前社長など創業家の資産管理会社「ビッグアセット」が所有している。そのため、新体制への移行後も、創業家が株式の一部を所有するなどして旧会社の運営に関わる可能性があるとみられていた。特に宏行前社長は、一代で国内最大規模の中古車販売会社を作り上げた思い入れもあった。

 しかし、完全にビッグモーターの経営からは退く。経営の責任を取る意味で、旧会社へ資金を提供するが、資本関係は持たないことになった。資金を出した上で、完全に手を引くことにより、世間の批判に対してけじめをつけようとしたとみられる。兼重前社長の息子の宏一前副社長は、一連の交渉には関わっていない。

 旧会社は、これまでの顧客との訴訟や街路樹の伐採問題、それに関連して書類送検された社員についての対応、損害保険会社への補償など簿外債務への対応をする。

 ビッグモーターは下請け業者に強制的に車を買わせるなどしていたとして、下請法違反(購入・利用強制の禁止など)を公正取引委員会に認定され、勧告を受けた。公取委からは、過去にさかのぼって調査し、対応・公表するように求められている。これらも旧会社で対応していく。

 3社連合のジェイ・ウィル・パートナーズは、ガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)分野に強い。旧会社で過去の問題の清算などに注力していくとみられる。