トヨタ自動車は7日、2025年4~6月期決算の発表に際してオンラインで取材に応じた。主な質疑応答は次の通り。
―米国の関税について、通期で約1兆4千億円の影響を織り込んだ
東崇徳経理本部長「自動車・部品関税の15%を8月から織り込んだ。メキシコとカナダの動きも、分かっているものは入れている。一方で、インセンティブの還元時期などは不透明だ。仕入れ先の負担については1社1社相談しており、仮説を置いて算定した」
上田裕之渉外広報本部長「当社に関わる方々に安心感や基準を示す観点からも、いったん8月1日適用との前提で仮置きしている。日米だけでなくUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)などの状況でも変わってくる」
―仕入れ先の関税影響を織り込んでいるか
東本部長「当初は4、5月の車両への関税影響を1800億円としており、今回は4~6月期で4500億円とした。期間を延ばしたのと、仕入れ先の米国拠点が日本から輸入している分などの水準を話し合った影響がある。金額(の内訳)は公表しないが、自動車・部品の両方を織り込んだ。過去にも超円高など、チャレンジの局面があった。そんな中、トヨタだけが頑張るのではなく、(仕入れ先も)自助努力でどこまでできるか相談している」
―期初の生産計画1千万台を維持する。関税対応として仕向け地別の調整は
東本部長「米国は現時点でもインセンティブが低く、在庫も少ない。米国でも日本でも、お待ちいただいている顧客に一日でも早く届けることに変わりはない。体制を変えるのではなく、今の計画を達成していく」
―通期の国内生産が5万台減り、海外生産が同数増えているが、関税の影響か
東本部長「日本では高岡工場や元町工場(愛知県豊田市)などで新型車への切り替えがある。切り替え時にしっかり品質を確認しながら習熟する。グローバルモデルでもあるので、スタートはあえて段階的に立ち上げる。海外は米国や欧州中心に好調なところで需要に応じて台数をコントロールしており、能増など大きな変化点ではない」
―米国市場の見通しや、値上げを含めた販売の対応は
東本部長「市場環境の予測は難しい。足場固めをする中、仕入れ先の火災など、通常通りのものづくりができなかったこともある。こうしたことを減らし、総合投資を生産性につなげていく。価格は顧客の需要によるもので、関税で自動的に上乗せされるものではない。一方的な値上げではなく、商品力向上と原価低減に仕入れ先と取り組む。米国で生産余力があれば、空いているところを活用し、現地生産する。ありとあらゆることを想定し、オペレーションを磨き上げたい。価格改定は、顧客に受け入れていただく適切なタイミングでしていく」
上田本部長「北米は4月の駆け込み需要もあった。この3カ月を見ると地域軸・商品軸の経営が成果に結びついている。関税で各社がどういう価格戦略をとるかは分からないが、市場や顧客と対話し価格・商品を決めていく」
―中長期的に高関税がニューノーマル(新常態)となる中、回避・吸収・転嫁の3つの点でどういう手を打つか
東本部長「中長期的には現地生産が基本であり、それに対し関税や為替の影響をいかになくしていくかだ。足元では、物流オペレーションなど短期的に回避できるところはしっかりやる。米国だけでなく各国のバックオーダーがあるところでお応えしていく。これまで、われわれの強みといえば原価低減とTPS(トヨタ生産方式)だった。2019年頃から、販売ネットワークや保有の力を意識し始め、今でいうバリューチェーン収益を2兆円に倍増させた。奇策はなく、地道にわれわれの強みを生かして乗り越える」
―関税影響がある中、1兆円以上の利益を積み上げた。生産性改善の効果は
東本部長「これまで必要な投資について現場で声を出せなかったり、人を入れても力を引き出せなかったりした。認証問題もきっかけとなり、経営陣が現場に向き合い、必要なお金を使っていった。総合投資において、効果に時間がかかるものや、リターンを求められないものもある。即効性だけを求めない考えが浸透し始めた。販売が16万台伸びたのはその結果だ。足元では少しずつ余力が出てきて、今期は改善に注力できた」
―中国事業が上向きだ。価格競争は終わったのか
東本部長「グローバルモデルと中国の顧客が求めるモデルの2つに分け、戦っている。後者は中国の開発リーダーが中国で求められる車をつくるのに徹する。上海の工場でも同様だ。5カ月連続の前年超えで好調を維持しており、引き続きこの方向で頑張る」
―自動車関税が15%で合意したことの受け止めと、政府への要望は
東本部長「当初2.5%だったことを踏まえると影響は大きい。われわれでコントロールできないので、どうにかして収益が出る状況にしていくのが課題だ。一方で、国内300万台の生産基盤は失いたくない。これがあるからこそ各地域で開発・生産を横展開できる。そのために国内の需要喚起策を含め、皆で戦って守りたい。自動車業界550万人がかかわるところであり、関係者にもお願いしたいし、トヨタも維持できるよう取り組みたい」
上田本部長「需要喚起策の一環として、9種9兆円といわれる自動車関連諸税の抜本的な見直しを求めていく。特に取得時の税は複雑で、消費税以外も取られている。低減・廃止していただき、日本でもっと『車を買おう』という気持ちになる施策をお願いしたい。今回の関税交渉については政府に感謝している」
―トランプ米大統領が半導体に100%の関税をかけると表明した
上田本部長「一つはっきりしているのは、日本で車という製品に変わった状態で米国に輸出すれば、自動車関税の15%が適用される。半導体だけ抜いて100%にはならないと理解している。直接輸出する場合は、受け取る会社が払うのが基本原則だ」
―愛知県豊田市に車両工場を新設すると発表した
東本部長「工場の老朽化を踏まえ、将来に向けた300万台のものづくり基盤を残していく。老朽更新をしながら、どういう体制でやっていくかについて、まず手を打つ。基盤を残す上で、ものづくりの場所、新たな働き方のチャレンジの場所を整えたい。詳細は今後、開示していく」
上田本部長「マザーカントリーの日本で、どのような状況になっても雇用を生み技能のある人材をつくる。関税に直結しない部分もあるが、改めて日本にフォーカスし生産・雇用を守る意思の表れだ」