排ガスが出ない上、油圧機構の音が耳につくほど静かに動くという
水素の貯蔵モジュール
給水素装置はさらに小型化を進めていく
水素の〝仲間〟たち(FCトラック)
水素の〝仲間〟たち(FCフォークリフト)

水素で動くクリーンなパワーショベルの開発が進んでいる。トヨタ自動車の水素ユニットを用い、コマツが開発しているものだ。トヨタとしては、水素を活用する〝仲間〟を増やすとともに、実際の開発や試作でしか気づけない〝学び〟を通じ、水素社会に一歩ずつ近づいていく考えだ。

燃料電池(FC)で動く「FCショベル」を、富士スピードウェイで行われた「スーパー耐久シリーズ富士24時間レース」で公開した。製品とともに、水素貯蔵モジュールと小型給水素機を工事現場まで運び、FCショベルに供給する仕組みなども会見で紹介した。

コマツは、トヨタの燃料電池車(FCV)「ミライ」のFCスタックと水素タンクを搭載する「中型油圧ショベル」のコンセプトマシンを2023年5月に開発し、実証を続けている。

特徴は、高い環境性能と静粛性だ。コマツの草場泰介常務執行役員CTO(最高技術責任者)は「音が静かで、油圧の音とかすごく耳につくようになってくる。そのチューニングが楽しみな開発の一つになっている。それと排気ガスも出ないしクリーン。この2点は大きい」と話す。稼働時間などはこれから詰めるが「充填がスムーズにできるのであれば、昼休みまで4時間働き、昼休みにチャージして昼からまた動く。また午後の休憩でチャージしてというサイクルを繰り返せば、一般的な土木の現場では使えるというところだ」(草場CTO)という。

トヨタとコマツは、建設機械のFC化に加え、地下や高所、低高温下など過酷な工事現場に水素を運ぶ仕組みづくりでも協力し合う。コマツの草場CTOは「機械が止まるとお客さまの打撃になる。何とか水素を届けなければならず、トヨタの取り組みは建設や鉱山機械の業界においても有効だ」と語る。

現在、検討しているのは、大型の水素タンクを搭載した貯蔵モジュールと、小型化した給水素機を組み合わせた〝ミニ水素ステーション〟だ。定置型の水素ステーションで貯蔵モジュールに水素を充填した上で「ハイラックス」のようなピックアップトラックや小型トラックなどに載せて工事現場にまで運び込み、FC建機に横づけして水素を供給する。トヨタの中嶋裕樹副社長は「これから車を仕立て、実際に運び込むことをやっていく」と話した。

トヨタはこれまで、スーパー耐久シリーズを通じ、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)社会の実現に向けてさまざまな取り組みを進めてきた。次期車両や先行技術の開発だけでなく、水素やカーボンニュートラル燃料の利用拡大、社会実装に向けた仲間づくりを「使う」「運ぶ」「作る」という3つの観点から網羅的に進めている。

試作や実証を通じた学びも無視できない。今回、コマツが富士スピードウェイで展示したFCショベルの場合、積載車へ自走で乗り降りしたが、そのためだけに静岡県から認可を得る必要があったという。高圧ガス保安法には「水素などの特別高圧ガスを消費する者は、消費開始の20日前までに、ガスの種類や消費施設の位置、構造、消費方法などを記載した書面を添えて都道府県知事に届け出なければならない」とあるからだ。FCVの場合は、車両やインフラ側とも法整備は進んだが、水素利用を広めようとすると、こうした「壁」によくぶつかる。

トヨタは、業界の枠を超えて仲間づくりに取り組むことで、こうした制度面での細かい課題を解決したり、カーボンニュートラルの実現に向けた社会受容性の醸成につなげていく考えだ。

(編集委員・水町 友洋)