〝整備士の卵〟をどう見いだし、育てるか(イメージ)

 国内の自動車整備業界で深刻化する一方の人手不足。官民でさまざまな取り組みが進むが、人材の確保に向けた次の一手はまだ模索中だ。

 整備業界でも、働き方改革やデジタル技術の活用などで生産性の向上が進む。しかし、整備士不足が招く現場の疲弊は隠しきれない。

 首都圏のあるディーラーは、点検・整備や車検の入庫予約客を最優先とし、故障などを理由に来店した飛び込み客の当日対応を断ることが増えた。「自社の評判や顧客満足(CS)のマイナス影響は覚悟の上だ」と関係者は話す。整備士の日々の業務予定は隙間なく埋まり、飛び込み客に対応できる人手や余裕はほぼない。

 キャリアアップの一環として、ディーラーでこれまで行われてきた整備士から営業職への配置転換にも影響が出始めた。東北のあるディーラー代表者は「配置転換できるほど整備士の人員体制に余裕がない」と話す。

 地方では廃業や店舗の統廃合が進む。整備士不足を理由に、廃業や指定工場の認証返上を検討している事業者も珍しくなくなってきた。この煽(あお)りで、最寄りの整備工場まで車で1時間かかる事例もある。

 今後は、整備士不足に加え、後継者不足や「最新の整備技術についていけない」といった理由から廃業を決断する整備事業者が増えることも予想される。

 ある整備専業者は「いずれ整備業界も『物流の2024年問題』と同じように整備を受けづらくなる〝整備難民〟が一定数生まれ『整備の20○○問題』を迎えるのではないか」と予想する。首都圏にあるディーラーの関係者は「廃業や店舗集約などが加速した結果、『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティーの長編小説)地域が生まれてもおかしくはない。その時に手を打とうとしても遅い。『整備崩壊』はすでに始まっている」とさらに悲観的だ。

 国土交通省の調べによると、自動車整備職種の有効求人倍率は21年度で全国平均4.55。全職種と比較して約4倍の高さだ。都道府県でばらつきはあるが、5年前の16年度と比べていずれも上昇傾向にある。21年度で有効求人倍率が7以上は秋田、愛知、奈良、島根、広島の5県だった。

 整備士の平均年齢が上昇傾向にあることも踏まえると、整備士確保に向けた対策の一つとして、将来の整備士を輩出する自動車整備大学校・専門学校などの入学者を増やすことが重要だ。ただ、人口減少や少子化などを背景に、実際の入学者数はピーク時の半分以下に減った。

 日本の出生数(外国人を含む)は9年連続の減少で、24年も前年比5.0%減の約72万人と過去最少を更新した。政府の将来推計よりも早いペースで減り続ける少子化は、自動車整備大学校・専門学校などの学校経営にも深刻な影響を及ぼしている。

 近年は外国人留学生を受け入れる学校が増え、在学生の半数近くが留学生という学校も。ただ、整備士の不足を根本から解決するためには日本人の整備士を増やすことも必要だ。安心・安全なクルマ社会を保つ上でも、官民を挙げて〝整備士の卵〟を見いだし、育てていく努力が求められる。

 

100年に1度の大変革期にある自動車産業だが、どんな新型車も人手をかけた整備なしでは性能を保てない。本連載では、整備業界における課題ごとに、企業や団体の取り組みなどを取材し、「今とこれから」を探る。