スマホ充電では身近なワイヤレス給電技術
米オシア社の技術を使ったスマホ用給電レシーバー

 豊田合成が「ワイヤレス給電」の開発を進めている。5年前から出資先の米スタートアップと共同研究を始め、住宅用の給電装置を試作したほか、産学連携でさまざまな給電技術を開発する。将来的に自動車へ応用すれば、利便性向上のほか、ワイヤーハーネス(組み電線)を減らす効果も見込める。同社はもともと、青色LEDや窒化ガリウム(GaN)パワー半導体など、先進技術の開発に積極的なことで知られる。車載のほか、産業や家庭などさまざまな応用が期待できるワイヤレス給電の実用化を通じ、社会課題の解決を目指す。

 ワイヤレス給電は、文字通りワイヤー(電線)を使わずに電力を送る技術。「電磁誘導方式」や「電界結合方式」、マイクロ波やレーザーを用いる「電磁波方式」などいくつかの方式があり、スマートフォン(スマホ)充電など一部で実用化もされている。一般に電磁誘導や電界結合などは給電距離で数㌢㍍程度、電磁波方式は数㍍~数㌔㍍程度の伝送が理論上は可能だ。一方で給電効率の向上や低コスト化、安全性確立などの課題がある。

 豊田合成は、電磁誘導方式のワイヤレス充電器や、磁界共鳴方式のワイヤレスレジスタ照明などを自動車メーカーに納めた実績を持つ。出資先の米オシア社とは、マイクロ波給電を使った住宅や民生機器用の技術を開発中。オシア社は数㍍離れた複数の機器に同時給電する技術を持つ。指向性を持つマイクロ波により、特定の機器にだけ充電することも可能だ。

 同社はオシア社のほか、マイクロ波給電で独自技術を持つ日本のスタートアップ、スペースパワーテクノロジーズ(古川実代表、京都市西京区)にも出資。電界結合方式についても、GaNパワー半導体技術を応用し、名古屋大学との産学連携で開発を進めるなど、〝全方位〟でワイヤレス給電技術を開発する。開発成果はまず、工場現場で困りごと解決などに活用しつつ、2026年度以降をめどに車載や産業向けも含め、提案を検討していくもよう。

 この分野の研究開発を主導する同社の牛田泰久主監技師(名古屋大特任准教授)は「自動運転や人工知能(AI)の普及で、センサー類は今後も増える。情報通信のワイヤレス化とともに、エネルギー伝送のワイヤレス化を通じ、社会課題の解決につなげたい」と話している。