トヨタ紡織の協力で試作した、再生PPを用いたドアトリム

 収納ケースがクルマの内装に―。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は、プラスチック製品を自動車部品として再利用し、資源循環させる仕組みを2027年度までに確立することを目指している。トヨタ自動車やトヨタ紡織、豊田合成の協力を得て、プラ製品由来のドアトリムなどの試作を進めている。トレーサビリティー(追跡性)を確保する情報基盤も確立する。欧州では新車に再生プラの使用を義務付ける「ELV規則」が31年にも施行される。SIPは規制対応に加え、サーキュラーエコノミー(循環型経済)を世界に先駆けて確立し、日本の産業競争力強化を狙う。

 SIP「サーキュラーエコノミーシステムの構築」ではトヨタや日産自動車、ホンダ、マツダ、デンソー、豊田通商が参画し、自動車用として多く用いられるポリプロピレン(PP)を中心に、素材の確保から部品の製造、再資源化までの一連の流れの確立を目指している。

 トヨタ紡織と豊田合成の協力を得て、昨秋には再生PPを25%混ぜたドアトリムやグローブボックスを試作した。収納ケースやコンタクトレンズケースなど、市場から回収したPPによる試作にも取り組む。トヨタも部品に求める物性や品質など「目標仕様」を開示するなどして開発を後押しする。

 再生プラの品質とトレーサビリティー確保のため、NEC主導で情報共有基盤「PLA―NET(プラネット)J」の構築も進める。再生品にIDを割り当て、その由来や加工した企業、物性値などを入力し、ブロックチェーン(分散型台帳)で改ざんを防ぐ。欧州の「ガイア―X」や日本の「ウラノス・エコシステム」など、既存の情報基盤との接続性も持たせる。

 また、再生材を耐衝撃性などの性能ごとに10以上のグレードに分け、利用しやすくする工夫も施す。品質の分析と改善には東北大学内の放射光施設「ナノテラス」を用いている。これらを資源循環に向けた一連のシステムとし、27年度をメドに確立を目指す。

 欧州ELV規則は、新車に使うプラスチックの25%を再生材とすることを求めている。再生プラの需要が30年には30万㌧に急増し、供給が不足するとの想定もある。市場からプラ製品を回収し、自動車部品として使う仕組みづくりが求められている。

 規制で先行する欧州でも、自動車用に用いるプラスチックの資源循環システムを構築できているわけではない。SIPではこれをいち早く確立し、リサイクル事業者の設備投資も促しながら、日本の産業競争力の強化を目指す。WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)でもこうした取り組みをPRし、再生プラの情報共有基盤としてプラネットJの国際標準化も目指す。

 プロジェクトを主導する東京大学の伊藤耕三特別教授は「社会の資源循環の流れの中で、日本の産業がうまく変革するきっかけになれば良い。自動車メーカー、サプライヤー、リサイクラーの課題を明らかにし、お互いに歩み寄るための先駆けをするのがわれわれの役目だ」と語った。

 【用語解説】SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)

 省庁横断型の研究開発プロジェクトとして2014年度に始まった。開発テーマごとに司令塔となるプログラムダイレクターを選び、トップダウン型で研究を進める。基礎研究から社会実装まで一気通貫で進めることも特徴だ。1期5年のプロジェクトで、これまで2期にわたり23テーマに約3千億円が投じられた。「自動走行」「革新的燃焼技術」など自動車関係もある。23年度から3期目に入っている。