ホンダ労組の申し入れの様子。ホンダ提供

 自動車メーカー各社の労働組合は12日、2025年春季労使交渉(春闘)の要求書を一斉に経営側へ提出した。物価上昇に伴う実質賃金の目減りを防ぐため、前年に引き続き高い水準の賃上げを求めた。各労組が加盟する自動車総連では、業界全体の競争力向上に向け、中小・小規模(零細)企業の賃上げに力を入れる。大手の賃上げ機運が、すそ野が広く、取引階層も深い自動車産業全体にどれだけ波及するかが焦点となる。

 同日、自動車総連の金子晃浩会長は都内で会見し「物価上昇は顕著で生活の負担感は高まっている。何としても取り組みによって改善していきたい」と語った。

 2024年12月分の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)が前年同月から3.0%上昇するなど物価高が続く。自動車メーカー労組は、組合員の生活を守るため物価水準を上回る賃上げを要求した。

 日産自動車労働組合は、過去最高だった前年と同額の平均賃上げ額を掲げた。経営再建下でホンダとの経営統合も白紙となる見通しだが、業績に関わらず人への投資を継続する。マツダ労働組合は前年実績を2千円上回る1万8千円、スバル労働組合も2700円上回る2万1千円と、それぞれ過去最高となる賃上げを要求した。

 トヨタ自動車労働組合の賃上げ要求も過去最高水準だ。職種・階級ごとの賃上げ要求額を9950~2万4450円とし、若手社員が多い職種や階級に重点配分することで人材の確保や競争力強化につなげる。トヨタの賃金水準は製造業では最高水準にあるが、さらに賃金水準を引き上げることで自動車産業の魅力を率先して示す狙いもある。

 課題は中小・零細企業への賃上げ浸透だ。労働組合の中央組織である連合は、今春闘の賃上げ目標として大手企業で5%、中小企業で6%以上を掲げた。自動車総連も7年ぶりにベースアップ(ベア)に相当する「賃金改善分」の要求目安として1万2千円を打ち出し、格差拡大の抑止につなげる。また、賃上げの好循環を自動車産業全体に広げるには取引の適正化が欠かせない。金子会長は「物価上昇に見合う賃上げを全組合の従業員に対して行う」と語った。

 一方、一時金に関しては、足元の業績を踏まえて日産やホンダ、マツダ、三菱自動車などが前年実績よりも要求額を引き下げた。