2026年投入予定のゼロシリーズ「SUV」と井上執行役専務

 日産自動車との経営統合を見送るホンダの電動化・知能化シナリオが修正を迫られる公算が浮上してきた。主要市場である米国で電気自動車(EV)シフトが遅れ、コストがかさむ車載基本ソフト(OS)で組む相手も不透明だ。同社は投資計画に柔軟性を持たせつつ、ハイブリッド車(HV)や二輪で稼ぎ、将来的には次世代EV「ゼロシリーズ」と中国専用EV「イエシリーズ」を統合して自動運転などの機能を追加し、EV事業を軌道に乗せたい考えだ。文字通りゼロベースで〝ホンダらしさ〟の模索が続く。

 ホンダは2030年度までに10兆円規模を投じ、電池を含めた生産体制の整備や技術開発を進めている。ゼロシリーズは30年度までに7車種を投入予定だ。今年の「CES2025」では、26年発売予定の「サルーン」「SUV」のコンセプト車を披露した。

 井上勝史執行役専務は「新たな価格帯のビジネスとして、先進的なブランドを目指す」と〝ゼロからの挑戦〟という意味を車名に込めたと明かす。安価なモデルでは3万㌦(約470万円)以下とする一方、全体の価格帯は引き上げる。26年投入の3車種でまず黒字化させ、その後も機能を進化させたモデルで販売を増やし、30年度にはEVの売上高利益率(ROS)5%へとつなげていく。

 しかし、米国ではトランプ政権の誕生でEV普及策が見直され始めた。また、メキシコとともにカナダへの関税発動が猶予中だ。ホンダはカナダでEV工場の建設計画を進めている。貝原典也副社長は「工場の立ち上げやクルマの上市、生産増のタイミングは慎重に見極める。ある程度、柔軟性を持たなければならない」と話すが、米国への生産移管は容易ではない。その米国でのEV販売もインセンティブ(販売奨励金)頼みだ。ホンダは昨年、米国で「プロローグ」など2車種を発売したものの、青山真二副社長は24年4~9月期時点で奨励金を「当初想定から台当たり7千㌦ほど多く使っている」と話す。同社は30年頃にもEVが本格的な普及期を迎え、あくまで乗用車では「EVが最終的なソリューション」(貝原副社長)とのスタンスだ。

 しかし、EVシフトは必ずしも消費者が求めているわけではない。EVシフトのペースを左右する環境規制や補助金は、政治や経済情勢によって変化するリスクがある。イエシリーズを売り出す中国では、再び値引き競争が激化の気配を見せている。

 ゼロシリーズには「アシモOS」が載る。ホンダはこのOSを足掛かりに、市街地での自動運転「レベル3(条件付き自動運転)」の付加機能を追加してホンダらしさを出していく。ルネサスエレクトロニクスと共同開発するSoC(システム・オン・チップ)も人工知能(AI)を活用する上でのカギとなる。いずれも20年代後半のモデルから搭載していく。

 車載OSは開発や機能更新、サイバーセキュリティー対策など絶えずコストがかかる。年間1千万台ほど生産するトヨタ自動車や独フォルクスワーゲンはともかく、約370万台のホンダは、コストを下げたり、アプリを増やしたりするため、アシモOSを搭載する〝仲間〟が必須だ。

 しかし、ここで不透明なのが日産(年産約340万台)との関係だ。ホンダは経営統合に至らなくてもOSなどを共有したい考え。だが水面下では台湾・鴻海精密工業が日産に再接近している。仮にホンダと日産の提携が進んだとしても、日産が鴻海から出資を受ける場合、ホンダはトランプ政権から〝中国企業系〟と見なされる恐れがある。ホンダ幹部は「ピュアな日本企業同士で提携できれば良い話だった。地政学リスクには気をつけなければ…」と悔しさを隠せない様子だ。

 日産との協業機運もしぼみつつあるホンダ。競合の多くはすでに手を組んでおり、新たなパートナーとして組める選択肢は少ない。コストと商品性を天秤に掛け、EVやソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)時代にホンダらしさをどう再構築するか。好調なHVや二輪事業の影で試行錯誤が続きそうだ。