「トヨタの北の拠点」として1992年に創業したトヨタ自動車北海道は、ハイブリッドトランスアクスル、CVT(無段変速機)など、トヨタ車の駆動系ユニットメーカーとして世界各地に製品を出荷する。2024年3月には、第5世代トヨタハイブリッドシステムに搭載するハイブリッドトランスアクスル「PA10」の生産を開始した。自動車部品事業の一方、水素活用や宇宙ビジネスで道内の自治体や企業との連携も進める。昨年6月の就任から半年が経った高橋慎弥社長に今後の方針などを聞いた。
―トヨタ北海道にとって3機種目となるハイブリッドトランスアクスル「PA10」の生産を開始した
「無事に立ち上がった。逆にオートマチックトランスミッションは全製品の生産が終わった。当社の生産比率もハイブリッドトランスアクスルが、現状25%になっている。今後3割を超えてくることになる」
―ハイブリッド車が世界的に好調な中、生産能力増強の必要性は
「当社の強みとして、勤務形態に3組2交替勤務を導入している点がある。昼夜で稼働するため、残業の余地が大きい。オーダーが増えても、追従できる構えはできている。当然、さらに台数が増えるということであれば、能力を増強することも親会社と調整して決めていくということになるが、現段階で決まっていることはない」
―トヨタグループの中での役割は
「マルチパスウェイ戦略の中で、当社の位置付けは駆動ユニットの量産拠点であり、『将来に向けた原資を稼ぐ会社』だと捉えている。電気自動車(EV)の開発など、将来に向けた製品開発にリソースを割く中、良品廉価な駆動ユニットなどを量産することが当社の役割の一つだ」
―再生可能エネルギーのポテンシャルが全国有数と言われる北海道で操業するメリットをどのように生かすか
「エネルギーの地産地消モデルをつくりたい。北海道は再エネの宝庫であることに加え、当社が立地する苫小牧では、再エネ由来の電力を活用して水電解プラントによるグリーン水素の生産も計画されている。こうした動きとも連携していきたい。北海道の余剰電力を本州に送電するという声もあるが、まずは自分たちがこうしたエネルギーをしっかり使っていきたい。トヨタグループでは、35年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を目指しているが、トヨタ自動車北海道は地産地消モデルでロードマップを描く。必要に応じてトヨタ自動車にもフィードバックしていきたい」
―水素活用では札幌市に社員を派遣している。狙いは
「札幌市が進める水素を活用した街づくりに共感している。人事交流を通じて当社は行政とのつながりなどを学び、行政はわれわれのノウハウを使う。ウィン・ウィンの関係を構築していきたい」
「ただ、カーボンニュートラルに向けては、まず使う電力、エネルギーを減らすことが大事だ。担当部署だけが考えるのではなく、従業員皆に教育し、点ではなく面で考える。こうした取り組みが北海道庁からは『製造現場主体のみんなの省エネ活動』として認められ『北海道省エネルギー・新エネルギー促進大賞』もいただいた。水素関連でも2月の『さっぽろ雪まつり』で、新たな取り組みをお披露目したい」
―道内での部品調達率は、今後拡大していくのか
「設備調達や資材など、より幅を広げて考えていく。さらに言えば現地調達率だけでなく、当社が持つスキルやノウハウを、自動車関連のサプライチェーン(供給網)だけでなく、さまざまな産業の支援に役立てたい。水産加工業や酪農、農業、菓子製造の量産ラインの支援もしている。ロケット開発などを手掛けるインターステラテクノロジズにも社員2人が出向している。当社が地域に貢献できることを増やしていきたい。それが、この地で持続的に生業を継続的に発展させていくのに重要だ」
―テレビCMを始めるなど、露出を増やす狙いは
「社員にとって、家族や友人に胸を張って誇れる会社でありたいと思っている。そのためにもまずはインナーブランディングが大切になる。周囲の人にどのような会社か見て、知ってもらうことで、社員の皆さんに、より『頑張ろう』と思ってもらいたいと考えて始めた」
―採用活動への効果も期待するのか
「当然、インナーブランディングの先には認知度の向上もある。採用は従来通りにはできていない。本州の大学に通う北海道出身者へのアプローチを強くするなどしていく必要もあるが、奨学金利用者への支援を検討している。入社後の返済をサポートする仕組みを準備している」
〈プロフィル〉たかはし・しんや 1991年3月名古屋市立大学卒、同4月トヨタ自動車入社。2019年1月生産管理部長、22年1月ロシアトヨタ出向、23年7月衣浦工場主査、24年1月トヨタ自動車北海道顧問、24年6月現職。1967年8月生まれ、57歳。愛知県出身。
(北海道支社・西村 真人)