東日本大震災での福島第一原発事故の後、船積みする中古車の放射線量検査が今も続いている問題で、国土交通省、経済産業省、資源エネルギー庁の関係3省庁は2日、横浜市内で港湾運送関係者、中古車輸出業者など向けの説明会を開いた。政府の説明会は初めて。政府側は科学的根拠や裁判の確定判決などから関係者への健康被害は考えにくいとし、事実上検査は必要ないとの認識を初めて示した。

◆共通認識を醸成して

 国交省港湾経済課、経産省自動車課、資源エネルギー庁原子力損害対応室の課長、室長らが説明した。事業者らは70人超が参加した。今回の説明会について政府側は2024年3月に閣議決定した、東日本大震災からの「復興の基本方針」の中にある、風評払拭(ふっしょく)に向けて政府一体となって取り組むことに沿って行っている、とした。科学的・合理的見地から検証し、情報発信を進めるという政府の方針を強調した。

 検査の費用負担をめぐる民事訴訟の東京高裁確定判決(17年9月)で、科学的見地から港湾労働者への健康被害は考えにくく、すべての中古車の放射線量検査の必要性は認められないとの趣旨が記されたことなどを紹介した。その上で「(検査については)科学的、合理的な見地から検討する必要がある」と事実上、役割を終えたもので不要であるとの認識を示した。

 今回の説明会は、横浜市での前に、大阪市、名古屋市でも開催しており3回合計で約170人が出席した。説明会で用いた資料や議事録については各省庁のホームページなどで公開する予定だという。情報を公開することで、関係者の共通認識を醸成し、国民に知ってもらう考えだ。

◆今後も何らかの手立て

 質疑応答では、沖縄県の中古車事業の組合(会員360社)代表者が口火を切った。中古車の8~9割を本土から船で運んできており、過去12年間で約4億円(1台700円×57万台)を負担してきたことを説明。「事業者から不満が高まっている。まだ検査は必要なのか、いつまで続くのか」「今後、事業者と(検査継続を主張する)労働組合の間に話し合いの場を設けるなど調整に乗り出す考えはあるか」などと質問した。

 政府側は明確な回答は避けたが、今回の説明会を「一つのきっかけと考えている」とし、今後も何らかの手立てを打っていくことを示唆した。

 また、国交省のホームページで掲載されているガイドラインではコンテナなどの放射線量検査費用について、「必要としているものが負担すると考える」と明記されている。日本中古車輸出業協同組合(JUMVEA、東京都品川区)の佐藤博理事長が「検査は港湾労働者の健康を守るのが目的であれば、港湾労働者(や雇用主)が負担するべきで、中古車輸出事業者が負担するものではないのでは」とただした。

 政府側は「この検査は法に基づいたものではなく、民間の労使合意で行っている」などとし、明確な回答は避けた。

◆労組が納得しなければ

 説明会には、検査継続を主張している港湾労働者の労働組合幹部も参加していた。日刊自動車新聞の取材に対し、労組幹部は「今日は政府の説明を聞きに来た。まず、この中身を組合員、仲間に報告する」とだけ語った。

 全国の船積み中古車の放射線量検査の結果は18年(基準値超えは48台)を最後に公表されていない。ただ、地元の港運協会と覚書を結んでいる川崎市は現在も公表しており、19年度以降、24年11月上旬まで111万台以上を検査したが、基準値超えの放射線量が確認された中古車はゼロだった。

 この検査は、日本港運協会(日港協、久保晶三会長、東京都港区)と全国港湾労働組合連合会(全国港湾)、全日本港湾運輸労働組合同盟(港湾同盟)が11年8月に「暫定確認書」で合意してから今に至るまで続いている。全国港湾の幹部は日刊自動車新聞の4月時点の取材に対し、労働者の健康を守るために福島第一原発の完全廃炉など、放射能問題の心配がなくなるなど環境が整うまで検査を続ける考えを強調した。

 検査は指定された5団体の中の数団体が行う。検査料は地域別で1台700~1500円とみられる。全国の輸出業者や陸送業者は年間で数十億円を負担している。

 労組が納得しないまま検査を廃止した場合、労組の指示で港湾労働者が車の荷積み作業を拒否する可能性もあるため、進展がなかった。JUMVEAと日本陸送協会(北村竹朗会長、東京都港区)は、放射線量検査の廃止を求め今春から連携している。