道路を走る際に料金を徴収する「ロードプライシング」が世界でジワリと広がり始めた。英国やスウェーデン、シンガポールなどの一部地域では実施済み。米ニューヨーク州が2025年1月に「渋滞税」として導入を目指すほか、インドやタイ、ベトナムでも検討が進む。導入地域では一定の効果が上がるものの、「道路は無料」と考える市民や企業の反対で頓挫するケースも多い。課金技術も含め、まだ試行錯誤のようだ。

 ロードプライシングは交通需要管理(TDM)の一形態で、特定の道路や地域、時間帯などに応じて課金する制度を指す。有料道路の料金を変動させることも「料金調整型」として広義のロードプライシングに含まれる。

 国土が東京23区ほどしかなく、野放図に車を走らせると渋滞が必至のシンガポールで1975年に都心部で導入されたほか、86年にノルウェー、2003年にロンドン、07年にスウェーデンの一部などで導入されてきた。ロンドンの場合、導入前に比べて交通量は15%減り、渋滞は30%緩和したとのデータがある。

 米国でも25年1月からニューヨーク州で導入する構想が進む。ウォール街やタイムズスクエアなどマンハッタン中心部が対象となり、通行料は一日一回、9㌦(約1400円)だ。トランプ次期大統領が廃止を公言するなど曲折も予想されるが、道路補修の財源不足もあり、同州は導入を急ぐ。

 自動車の保有台数が増えるインドやタイでも、深刻化する渋滞の解決策としてロードプライシングが検討されている。インドはデリーの13カ所の中心部で導入する方針。タイでは政府がバンコクを走行する車両に対し、一日40~50 バーツ (約180~220円)を課す方針を示した。ベトナムはハノイを対象エリアとして導入を検討中だ。

 日本では、国土交通省が料金調整型のロードプライシングを高速道路で25年度以降、試行する方針で、詳細を詰めている。過去には大型車を郊外の有料道路へ誘導する「環境ロードプライシング」が首都高や阪神高速で実施されたこともある。

 渋滞解消、道路財源の確保、電動車シフトに伴う燃料税収の補填―狙いはさまざまだが、今後も導入を検討する都市は増えそうだ。路上カメラの高精度化やETCなどのDSRC(狭域無線通信技術)機器など課金技術も整ってきている。

 ただ、生活や企業活動などに幅広く影響が出るため、曲折をたどるロードプライシング構想も多い。東京都は01年、独自のロードプライシング構想として、規制区域に入るには400~1200円かかるなどの料金案を打ち出したが、運輸業界などから反対論が噴出し、実現には至らなかった。17年に神奈川県鎌倉市でロードプライシング構想が持ち上がったが、市民から賛否両論が寄せられ、鎌倉市は「市単独での検討が困難」としている。

 有料道路の新設とは異なり、これまで無料だった道路を有料化する取り組みだけに、狙いや費用対効果などの議論を尽くし、社会的な合意を形成する取り組みや、ドライバーの行動変容を促しつつ、納得感や公平感がある料金水準の見極めなどが不可欠と言えそうだ。

(藤原 稔里)